呪われた精霊の王子様は悪役令嬢に恋をする

精霊王子と公爵令嬢

細心の注意を払う。
大きな力は主を見失い、少女の身体の中で迷い、暴走する。
それをギルベルトが導くのだ。

ここで精霊魂を取り戻す事も考えたが、それをしてしまうと、少女がポックリ逝ってしまう可能性がある。

それは流石のギルベルトも目覚めが悪い。
仕方が無いから少しだけ貸してやる。
自分が動けるだけの力は貰うが。

唇を通して収束していく力に、ホッと力を抜く。

「ったく、世話の焼けるお子様だ」

と、床に胡座をかいて座ると少女が小さく見える。
ハッとして身体を見回すと、確かめた手の大きさが、少女の顔を覆う。

ーーーー身体の大きさが戻ったのか!?

一体どういう事だ。動けるだけの力は今先精霊魂からは取り出したが•••••呪いが解けたのか?
真実の愛とやらはどこ行った。
まぁ、とりあえずコイツを寝かさないと。

天蓋付きの寝台は少女らしく華やかだが、落ち着く色合いだ。
天蓋付きならば、金持ちの娘か。
寝室らしきこの部屋を観察すれば、なる程、どこかのお貴族様らしい。

靴を脱がせて、ブラウスのリボンを解き、呼吸を楽にした状態で寝かせてやれば、直ぐに聞こえる安らかな寝息。

額の汗を拭ってやると、それまで様子を伺っていた下級精霊達がワラワラと出てくる。

《エルディアーナ大丈夫?》
《もうへいきー?》

光の粒が枕元で騒ぎ出し、少女の顔があっという間に見えなくなる。
ギルベルトが手を振ると大人しくなったが、枕元から去ろうとはしない。

「コイツ、エルディアーナと言うのか」

《そうーーーー!》
《こうしゃくれいじょうっていうんだってー!》

「なる程な。その公爵令嬢のエルディアーナが今まで生きてこれたのは、お前たちのおかげもあった訳だ」

《わーい、おうじにほめてもらったー》

いや、別に褒めた訳ではないんだが。
精霊達の姦しさに溜め息を付いたが、ポフンと音がしたと思ったら、少し前の身の丈に戻っている。

なんだ!?呪いは解けたんじゃないのか!?

《おうじが小さくなったー》
《ちっちゃいねー》

「煩いぞお前たち。コイツが起きてしまうだろうが!」

短い解呪の時間だったな。3分程か。
ギルベルトはガックリと項垂れた。


そのまま視線をエルディアーナに向ければ、なんとも呑気に見える寝顔。
不思議な魂の持ち主だーーーーどちらかと言えば、【こちら】に近いだろう。


確かコイツーーーープラチナブロンドの長い髪、瞳の色は紫だったか。
黒い色彩が鮮やかに変化していく。

ギルベルトの精霊魂が、体内ですっかり落ち着いたようだ。
と、同時にエルディアーナの長いまつげが震えて、アメジストの瞳が現れる。

「お、起きたか。具合はどうだ?」

焦点の合っていない瞳がギルベルトを捉えた。
拙い手が目を擦り、幾度かパチパチと瞬く。

「ーーーー貴方は•••••ッ!そうよ、精霊魂は、どうなったの?」

「そのままだ。エルディアーナ、お前の中に入ったまま。ったく、なんて無茶をするんだ。焦ったぞ。ああ、名前は精霊達が教えくれた」

ポカンとした顔も、人間にしては可愛いが、口を閉じろ。間抜けに見えるぞ。

「今更、返すとか言うなよ?今取り出したらお前、死ぬぞ」

小さな口を開けたり締めたりと、忙しい奴だな。

「な、ど、うしてーーーー」

「俺が、お前を死なせてしまう原因、にはなりたくないしな。人の一生なんて、俺のような精霊にとっては瞬きにも満たない。少しの間位は貸してやる。勿論、その魔力過多が治ったら返してもらうがな」

ひと言でいうなら、ギルベルトの気まぐれだ。
それにーーーーコイツの魔力過多は恐らく、治らないだろう。

どうせ精霊界には暫くは帰れないだろうし、その間地上(ここ)で遊んでいたって構わない。
一時の事とはいえ、解呪の状態になった訳も知りたいと思う。
見えない何かが、複雑に絡みあっている気がするのが、些か不安でもあるがーーーー今は良いとギルベルトは首を振る。
判断するには、不確定要素がありすぎた。

母上(ババア)は何かを知っているのか?

ギルベルトが今考えても、答えは出ない。
ーーーー様子を見るか?

動くエネルギーは、夜中にでもこっそり貰えば問題無いしな。
離れていても補足可能かは、これから試せば良い。


「えと、ありがとうございます?」

「どうして疑問形を付ける。言っておくが、その精霊魂をお前が持っている限り、俺はお前から離れられないんだ。感謝しろよ!?」

《かんしゃしろよ!?》

仁王立ちで言い放った、ギルベルトの真似をした精霊達の声も揃う。

ーーーーポーズまで丁寧だな。おい。

「俺の名はギルベルト。精霊界の王子だ。今は呪いを掛けられて、小さいがな」

「エルディアーナ、です」

知っているが、そこは様式美と言うやつだろう。
ギルベルトは「ああ」と鷹揚に頷くと、エルディアーナに手を差し出す。挨拶の握手だ。
白く小さな人差し指が、おずおずとギルベルトの手に触れる。


こうしてギルベルトとエルディアーナの共同生活が始まりを迎えた。




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