結婚願望ゼロだったのに、一途な御曹司の熱情愛に絡めとられました
オートロックの正面玄関を先生と通って、エレベーターに乗る。私の部屋は3階。エレベーターが動き出すと、先生が私に一歩近づく。ふわっと甘いコロンの香りがして鼓動が跳ねた。何で近づくのと思っていたら、「これは何ですか」と私の手から不動産屋の名前が印刷された黄色い封筒を奪った。

「ちょっと返して下さい」

先生に向かって手を伸ばす。器用に先生は避けて扉が開くと、私より先にエレベーターを降り、廊下を歩きながら不動産屋の封筒を覗く。

「物件の案内のようですね」

部屋の前に立つ私に先生が言う。先生を無視して鍵を開けて中に入る。

ベリが丘タウンの支店に転勤になった事は先生に教えたくない。私が今、窮地に立たされている事を知れば、それを利用して結婚しようと先生が迫ってくる気がしたから。

「どうぞ、入って下さい」

廊下なんてものはなく、ドアを開けたら、すぐに2帖のキッチンで、その奥が6帖の部屋になっている。あとは辛うじてユニットバスと狭いベランダがある部屋。先生にこの部屋を見られるのが正直恥ずかしい。先生はかなり狭い部屋だと思うだろう。

「今、お茶を淹れますから適当に座って下さい」

コタツの前に座るように促すが、先生はキッチンに立つ私の隣に立った。

「銀行は転勤が多いと聞きますが、どこかに引っ越すんですか?」

鋭い。

「しかも、『ベリが丘タウン』通勤圏の物件を探しているようですね」

先生が封筒の中から書類を出して見ていた。物件に求める条件が書いてある紙も一緒に入っていた事を思い出し、心臓が止まりかける。

「勝手に見ないで!」

先生が見ている用紙を掴もうとしたら、腕を掴まれた。そのままぐいっと先生の方に引き寄せられる。次の瞬間、私の鼻先は先生の胸の辺りに押し付けられていた。甘いコロンの香りがして心臓がびっくりしたように強く収縮する。
< 51 / 173 >

この作品をシェア

pagetop