余命宣告された年下社長に、疑似結婚をもちかけられまして。
二話
第二話

(回想)

一年前――

〇オフィス会議室(昼)
採用面接が行われている。
面接官は俊斗を含めて3人で、スーツではなくジャケットとパンツというカジュアルな出で立ち。
沙織は、リクルートスーツを着て髪の毛を1本に縛っていて、メガネを何度も上に上げながら、ガチガチに緊張している。
履歴書には仕事の経験がないと書かれている。しかも年齢は29歳。
俊斗は沙織を見て、何か思い出したような表情。


女面接官「今までどこにも働いたことがないんですか? 何で急に就職しようと思ったんですか?」
沙織「実家の手伝いをしていたのですが、大人として社会に出て自立生活をしてみたかったんです」
女面接官「なるほど……。なぜうちの会社を選んだんですか?」

その質問で沙織は瞳を輝かせて、熱く語り出した。

沙織「私には北海道に住んでいる祖母がいました。一人になってしまったので施設に入るか、こちらに引っ越してくるか、説得したんですが、嫌がってしまって」

俊斗は興味あり何話を聞いている表情。

沙織「そんな時に御社のAIロボットがあると知って祖母の家に置いたんです。安心して祖母の様子を見ることができましたし、祖母も寂しくないと言って最後の最後まで喜んでいました」

俊斗、身を乗り出して話を聞いている。

沙織「このロボットがあってよかったなって。素晴らしい会社だなと思って、私がもし働くことができたら絶対にここがいいと思ったんです」

面接官も納得したような顔をしている。
俊斗、完全に全てを思い出した様子。


二話おわり

(回想終了)


〇オフィス 社長室(昼)
俊斗、社長室から沙織の姿を見ている。
彼女は無事に採用されて事務員として頑張って働き始めて1年が過ぎていた。
休憩時間になると休憩室でいつも手作り弁当を食べていて、
早く終わると趣味の編み物をしているのだ。夏でも冬でも関係なく。
見た目はどちらかというと地味だが集中しているところが可愛い。
仕事も丁寧だし、よく気がついて頑張ってくれている。
破天荒な妹の面倒も見てくれている。
そんな姿を見ながら俊斗は、幼い頃を思い出していた――。

(回想)
◯公園(昼)
幼稚園の俊斗はぽっちゃり体型で、いじめにあっていた。

子供「ヤーイヤーイ」
子供2「キモイ! こっちくるな」

俊斗
(俺がこの会社を立ち上げようと思ったキッカケは、彼女が幼い頃、助けてくれたからだ。
きっと覚えていないだろう。
小さい頃の俺はめちゃくちゃぽっちゃりしていていじめられっ子だった。
そんな時、彼女が優しく話を聞いてくれたんだ)

9歳の沙織「あんな子たちの言うこと、気にしちゃだめだよ。寂しくなったらお姉ちゃんが話を聞いてあげるから」

泣きながらも頬を赤くしている俊斗。

俊斗(話しかけられてどんなに心が温かくなったか。だから孤独で辛い思いをしている人に話し相手ができるAIロボットを作ろうと夢を見たんだ)

(回想終了)



◯オフィス・屋上(夕方)
俊斗一人で空を見ながら黄昏ている。
沙織への思いが膨らんでいき、幼い頃に助けてくれたお礼と気持ちを伝えようと思っていたのだが……。
彼女は人見知りで業務以外のことを話すタイミングがなかなかなく、言えなくてもどかしい日々を送っていた。
そんな俺は昨日、余命宣告をされたのだ。

余命半年。
あまりにも短い人生だった。
大学時代から起業し仕事は成功。
見聞を広げたいからとたくさん海外旅行をし、様々な人と交流を重ねていた。
妹を育て上げ、社会人になってくれて。
最後にやり残したことはないか。
頭に浮かんだのが沙織だった。
素敵だなと思っている人と結婚生活をしてみたい。


☓   ☓   ☓

◯ホテルのテラス席(夜)

一話の最後につなげる。

俊斗「俺には時間がない。すぐに答えてくれ」
沙織「こんな、大事なこと、即答できませんっ! そ、それに年下ハイスぺ男子は苦手なんです」
俊斗「苦手? そんなの克服すればいい」

俊斗、熱い視線を注ぐ。沙織、照れつつも困惑。

俊斗「何でも言うこと聞いてくれるって言ったよな?」

俊斗「もちろん入籍はしなくてもいいから、疑似結婚でいい。そばにいてくれ」
沙織「……疑似結婚」
俊斗「交際している人がいるのか?」
沙織「い、いえ。交際経験はないのですが……」
俊斗「それなら三ヶ月でいいから、俺の奥さんとして一緒に暮らしてみてくれ!」

困惑している沙織に畳み掛けるように提案していく。
俊斗は、告白しようとも考えたが、自分は半年後に死ぬのだ。
彼女に重たい気持ちになってほしくないと思い、あえてラフな口調で伝えようと思っていた。

俊斗「人助けだと思ってくれないか?」

国宝級のイケメンが真剣な顔をしてお願いしてくると、苦手でざわざわするのに、キュンキュンしてしまうという複雑な感情に苛まれてしまう沙織。

沙織「じ、実家から出たことがありませんし……両親が許してくれるかどうか」
俊斗「お願いしに行こうか?」
沙織「い、いえ……!」
俊斗「俺には両親がいない。助けてくれる人がいないんだ」

沙織(妹の面倒を見ながら、学費も工面して短大まで出したって言ってたよね)

沙織「お言葉ですが、妹さんがいるじゃないですか?」
俊斗「あいつは……頼りにならない。逆に寿命を縮められてしまうかもしれない」
沙織「そ、そうですよね」

のんきで、ワガママな妹を想像する二人。

俊斗「どうかお願いだ」
沙織「どんな……病気なんですか?」
俊斗「心臓……らしい。こんなに元気なのに信じられないよな。半年後には電池切れだってさ。セカンドオピニオンも受けるつもりだ。もっといい治療法があるかもしれないし」
沙織「(断りきれずに)少しお時間ください。両親にも話をしてみます。前向きに検討するのでお願いします」

沙織(苦手な年下社長と疑似結婚。両親を説得しなきゃいけない。不安すぎる)
沙織(でも……余命宣告されている人を放っておくことなんてできないよ)


          第二話 終わり
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