余命宣告された年下社長に、疑似結婚をもちかけられまして。
三話
前回のシーン
沙織「(断りきれずに)少しお時間ください。両親にも話をしてみます。前向きに検討するのでお願いします」

◯実家・老舗料亭(夜)
立派な老舗料亭を見て沙織は大きなため息をついた。
正面玄関とは別の入り口から入ると実家に繋がっている。
お願いだと言われても両親は、許してくれるだろうか。
でも半年しか命がないと言うなら、かなり切羽詰まっている状態だ。
勇気を出して両親にお願いすることにした。

◯実家・居間(夜)
居間に両親が揃ってテレビを見ているところだった。

沙織「ただいま……」
沙織父「遅かったじゃないか」
沙織「ごめんなさい……」

萎縮してしまい何も言わずに部屋に戻ろうとするが、両親の前に勇気を出して座る。

沙織「あ、あのっ。2人にお願いがあります」
沙織父「なんだ? 仕事をしたいという願いを叶えてやったんだ。それ以上、何をしたいと言うんだ!」

沙織、泣きそうになる。

沙織「私の会社の社長が余命半年なの。家族もいなくて困っていて。妹さんはお手伝いできる状態じゃないみたいで。どうか私に住み込みでお手伝いをしてほしいって」
沙織父「なんだって?」

あまりにも勢いがすごいので沙織は震え上がる。
そして正座をして頭を床にこすりつけた。

沙織「助けてあげられるのは私しかいないの。お願い」

こんなに必死でお願いしてくる娘の姿を見たことが、両親は顔を合わせている。

沙織父「お前がそんなに言うなら……。助けてやってこい。その代わり1年後の約束は絶対に果たしてもらう。いいな?」
沙織「はい」

☓   ☓   ☓

◯実家・自分の部屋(夜)

ベッドと机があり、ぬいぐるみがいっぱいあって可愛らしい部屋。
かなり強引だったが両親を説得することができて一安心する。

沙織(……っていうか、何で私こんなにあの人のために必死になったの?)

沙織、ラインを送る。

沙織《遅くに申し訳ありません。両親を説得することができましたので、こちらはいつでも大丈夫です》
俊斗《では明日から家で過ごしてもらう。とりあえず最低限の荷物を持ってきてくれ。足りないものはこちらで用意するから》


◯オフィス(夕)
仕事が終わってそれぞれ帰宅準備をしている。
沙織は今日から社長と一緒に住むのだと思うと、ほとんど眠れず。
俊斗が何気なく近づいてきて書類を渡してきた。
重みがあったので確認すると合鍵だ。
スマホにメッセージが届いた。
そこには住所が書かれている。
《先に帰ってゆっくりしていてくれ》

◯俊斗家(夜)
言われた通りに沙織は副社長のマンションへ行く。
タワーマンションを見上げて驚いていた。
コンシェルジュが待機しており、おそるおそるエレベーターに乗って部屋に入った。
3LDKの広いリビングからは、夜景が見える。
スタイリッシュな空間で、まるでモデルルームだ。
自由にしていていいと言われたので、会社帰りにスーパーに寄って簡単な材料を買い込み料理を始める。
余命宣告されているので、薄味で作ろうと和食を中心に調理を開始。
苦手な年下ハイスぺ男子だけど、でも会社の社長として お世話になってきた。
1日でも長く生きていてほしい。
そんな心を込めながら料理をしていた。
すると俊斗が帰宅した。

俊斗「一緒に帰ってくれなくて悪かった」
沙織「お邪魔していました。台所を借りて料理をしています」
俊斗「へぇ。新婚ぽくていいな」

近づいてきて料理をする手元を見つめられる。
それだけで恥ずかしくて体が熱くなり頬が真っ赤になった。
一方の俊斗は、手際の良さに期待が膨らむ。

俊斗「なぁ」
沙織「(料理しながら)なんですか?」
俊斗「疑似結婚生活……だから、家にいる時は下の名前で呼び合おう」
沙織「えっ、は、はい……」
俊斗「沙織」

沙織(きゃあああああ)
心の中で叫んでいるが表情は平常心を保っている。
沙織は恥ずかしくて名前を呼ぶことができない。料理をしている手元が狂ってくる。

沙織「い、今は料理に集中させてください」
俊斗「嫌だ。呼んで」
沙織「……っ。(この人、本当に余命宣告されているの?)」
俊斗「じゃあ、ただいまのチューにしようか?」
沙織「え、えええええ、あのぉっ。いや、焦げちゃう!」

慌ててフライパンの火を消す。
俊斗は楽しそうに笑っている。

俊斗「後でたっぷりとだな」

そこに俊斗のスマホに連絡が入った。

俊斗「(電話に出る)はい、ええ。は?」

電話の相手は昨日、余命宣告をした病院の医者。

医者『大変に申し訳ありません。こちらの手違いで検査結果を間違えていたようです。西須俊斗様はどこも悪くありません。完全なる健康体です』

俊斗、ほっとしたが、沙織に視線を送る。
せっかく気になっている女性とひとつ屋根で生活できることになったのに。
しかも料理をしてくれていて、めちゃくちゃいい雰囲気だ。
これを逃すなんてもったいなさすぎる。
でも嘘なんかつけないし……。
俺はどうすればいいんだ!


第三話 終わり
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