愛し、愛され、放さない
「夜野です!
えーと…隣のってことは、黒沢さんの奥さん?ですか?
挨拶に行った時対応してくれたの、男性だったから」

「あ、は、はい!
ご挨拶が遅れてすみません!」 

「いえ!」

簡単に挨拶をして掃除をして、夜野と一緒にエレベーターに乗った。

「「お疲れ様でした!」」

他の住人達に挨拶をし、エレベーターの扉が閉まる。

すると………

「はぁぁ……
だるっ…!!」

「………え…!?」

夜野の雰囲気や態度が、180度変わった。

「あ、ごめんね。
君の前なら、気を遣わなくて良いかなと思って」

「え?」

「てか、ウザくない?
おばさん達」

「え?え?」

「色々、プライベートなこと聞いてきてさ。
暇なんだろうけど、とっとと掃除しろっつうの!」

「………」

「…って思わない?」

「あ、いや…その…」

「あ、ひいてる?(笑)俺のこと」

「い、いえ…」

「あーゆうタイプのおばさん達は、爽やかな青年を演じてたら何も言わないでしょ?
これから掃除とかしなくても“すみませーん”って言っておけば、喜んで掃除してくれるだろうし。
チョロいよな?(笑)」

「じゃ、じゃあ…“そのために”今日…」

「うん。
仕事忙しいのは、ほんとだけど…
そもそも、掃除なんて業者に頼めば良くない?
暇なおばさん達になんで合わせなきゃなんないの?」

「あ…それは、旦那さんも言ってました…
旦那さんがここに越してきた時に、月一の掃除のこと言われたらしくて“住人達で毎月お金を出しあって、業者に頼めば良い”って提案したらしいんですが、管理人さんとここが建った時から住んでる住人の人達が“そんなの勿体ない”って言ったらしくて…
確か今日来てた人達は、最初の頃からここに住んでる人達ですよ。
黒いカーディガン来てた人が、管理人さんの奥さんです」

「そうなんだ!
ねぇ、君もサボれば?」

「いや、そんなわけには……
私は、お仕事してないし」

「………」
呟くように言う玲蘭を、ジッと見つめている夜野。

「………え…!?な、何ですか…!?」
顔を覗き込まれ、びっくりして後ずさる。

「ん?ううん(笑)」


夜野は、百合・玲蘭宅に挨拶に行った日のことを思い出していた。

『―――――はい』
『あ!こんにちは!
今日、隣に越してきた夜野です!』

『あー、こんにちは』
淡々と挨拶する、百合。

『これ!
良かったら、どうぞ?』

夜野が、小さな紙袋を渡す。
中身は洋菓子だ。

『…………
結構です。
お気持ちだけ、いただきます』

夜野を真っ直ぐ見て、淡々と答えた百合。
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