愛し、愛され、放さない
エンジンを切ると、シートベルトを外した百合が「ねぇ、キスさせてよ」と言う。

「………う、うん…」
玲蘭は思わず構えて、百合の方を向きゆっくり目を瞑った。

必ず、車を降りる前に言う百合。
周りに誰もいないとはいえ、恥ずかしくて堪らない。

一度口唇を重ねると、軽くでは終わらない。

この時ばかりは(早く終わってー)と思うのだった。


車を降りて、手を繋ぎモールの方まで歩く。
近づくに連れて、人が多くなっていく。

百合が、繋いだ手をグッと自分自身の方に引き寄せた。
「玲蘭。もう少し僕にくっついて?」

腕を絡めるようにして密着して歩く。
玲蘭は恥ずかしくて、顔を真っ赤にしていた。

「とりあえず、服見ようか」
「うん」

ゆっくり歩きながら、気になる服を見ていく。
百合が気になる服を試着し、百合の“一存で”決め、購入していく。

「………これは、ダメだな…」
「………」

「んー、これなら大丈夫……!」
「………」

百合の片方の手には、沢山の袋がぶら下がっていく。

「………」
(なんか…疲れてきた…)

まるで着せ替え人形のように、着ては脱ぎ、着ては脱ぎを繰り返し、玲蘭は疲れてきていた。

「―――――玲蘭」
「ん?」

「疲れた?」
「え?あ、う、うん…」

「ごめんね。
連れ回して…」
「あ、う、ううん!
私の服を決めてくれてるんだし、大丈夫だよ!
…………あ、でも…こんな沢山……」

百合の手にある袋を見て言う玲蘭に、百合はさらっと言った。

「あ、だって、今持ってる玲蘭の服、全部処分するから」

「………」

「ん?玲蘭?」

「…………え…?」

「ずっとね。
思ってたんだ。
“全部”僕のモノにしたいって」

「………」

「玲蘭には、いつだって“僕に囲まれてて”ほしい。
玲蘭の目に映るモノ、聞こえる声、触れるモノ……全部……!」

「………で、でも…!」

「ん?何?」

「あ…いや…う、ううん…!」

百合の視線と声色に“凄まじい圧があり”玲蘭は、首を横に振るのだった。

「でもさすがに疲れたね…
少し早いけど、ランチにしようか!」

「うん…」


このままではいけない―――――

本当に私は“黒沢 百合”に支配され、百合くんなしでは生きていけなくなる。


百合に手を引かれ、玲蘭はそんなことを考えていた。
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