愛のない政略結婚で離婚したはずですが、子供ができた途端溺愛モードで元旦那が迫ってくるんですがなんででしょう?
「もー、びっくりしちゃった。
おやつにケーキ買いに寄ったら、宣利さんがいるんだもん」

そりゃいるだろうね、この辺を散歩してくると言っていたし、そのケーキ店はうちから徒歩五分圏内にある。

「お義母さん、荷物はこちらでいいですか」

ダイニングテーブルの上に宣利さんが母のエコバッグを置く。

「ありがとう、助かったわー。
牛乳二本も買っちゃったから重くて」

笑って母はやかんに火をかけたが、父と私は状況が飲み込めず、ただ茫然と見ていた。

「すぐにお茶を淹れるわ。
座ってて」

「お義母さん、これ。
たいしたものではないですが」

宣利さんがホテルで購入したなにか――たぶんお菓子の袋を渡す。

「あらあらあら。
よかったのに」

和やかに母と宣利さんは会話を交わしているけれど、どうしてこんなに馴染んでいるんだろう?

「お父さんも花琳もさっきから黙っちゃって、どうしたの?」

母は不思議そうだが、こっちこそどうしたのと聞きたい。

「ここ、座っていいか」

「あー、……はい」

私の隣を宣利さんが指し、とりあえず頷いた。

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