煙草を吸う女
 夜に島本から電話がかかってきた。前に言われていたことなんだけど、と切り出されすっかり頭から抜けていた。そうだ、俺は沢口さんのことを探ってほしいといっていたんだ。でももうすっかり失恋しているとは言い出せず、島本の報告を聞く。

『ちゃんと仕事しつつ、聞いたんだからな』
『ごめんな、本当に』

 いやいいんだけど、と島本は気まずそうにいった。

『俺、聞いたんだけど元々社内に恋人いたんだって。いつも俺の先輩と、その人と、沢口さんで喫煙所で話してたみたい。で、婚約するのもちらっと聞いて、その矢先』

 嫌な汗がたらりと流れる。

『ひき逃げの事故で、植物状態なったらしくって。とうとうこの間亡くなって……』

 その後の言葉は何も耳に入ってこなかった。
 彼女の夢見ていたソウちゃんはいなくなっていたのだ。ひとしきり、あぁ、とかうん、とか言って電話を切った。

 沢口さんが退職したと風の噂で聞いた。
 家の都合で辞めるということでとても急な退職だった。営業部の皆が残念だったなと声をかけてきて曖昧に笑っていた。もう一度、家の前まできたがリフォーム業者が作業しておりここの住人は退去したと告げられた。生命維持装置がなくても生きていけるのか、それとも。俺にはもう連絡できる手段もなにもない。できることといえば。ただ煙とともに姿を消したあの人が幸せになれるよう願うように、あの喫煙所であの煙草を吸うことだけである。


< 17 / 17 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

星が代わりに泣いてくれるから

総文字数/13,918

恋愛(純愛)28ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
結婚記念日を夫にすっぽかされたセリカは夫への不満が爆発してしまい勢いに任せて家を出て行った。 今日は各地で流星群が見えるらしい。それなら国立天文台へ見に行こうと何も告げずに車を走らせる。 長編にはなりません \10/29総合ランキングありがとうございます/
宛先不明の伝書鳩

総文字数/7,387

恋愛(純愛)18ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
三日に一回、リリーの家に鳩が手紙を持ってやってくる。しかしその手紙は差出人不明。 しかも愛の言葉がたくさん散りばめられている手紙だった。 身に覚えのない手紙に違いますよと送っても愛の熱量がエスカレートし、どうしていいか困るリリー。 そんなとき戦争から帰還した兄から、幼馴染の兄のシグと恋仲なのかと聞かれーーー? すれ違いラブです。 さくっと読めます
彼の結婚、私の今後。【短編】

総文字数/10,628

恋愛(純愛)21ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
友達以上恋人未満の友人・傑【スグル】と飲み会の時に結婚する旨を伝えられるなつき。 今度の日曜日、婚約者に会ってほしいと伝えられてしまう。 愛とは、結婚とは、不倫とは。 どんなものにも形があって、どんなものにも正解はなくて。 5/7初ランキング入りありがとうございます!

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop