もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜






 それから一週間後、皇都の広場でマルティーナの処刑が執り行われることになった。

 見物人の群れがざわめいている。キアラはフード付きのコートを被り、ひっそりと群衆に紛れて断頭台を見つめていた。

「離してっ! 離しなさいっ!」

 マルティーナの声が聞こえる。その声音はまるで声帯を潰されたようにがらがらと枯れていて、かつての鈴を転がしたような可愛らしい雰囲気は少しも残っていなかった。

「無礼者っ! わたしは未来の皇太子妃なのよっ!」

 元子爵令嬢および元小公爵夫人の異様な姿に、観客たちは息を呑んだ。あれだけ興奮の熱気に包まれていたのに、今は水を打ったようにしんと静まり返っている。

 薄汚れた麻のワンピース姿の彼女は、両手足は棒のように細いのだが……腹部だけが異様に膨らんでいたのだ。まるで臨月の妊婦みたいに、丸く張っている。

「お腹にはアンドレア様の赤ちゃんがいるのっ! この子を殺す気なのっ!?」

 マルティーナの衝撃的な発言に、動揺が広まった。

「第二皇子とも肉体関係があったの?」

「子供ができたの?」

「皇子の子供ごと処刑……?」

 困惑や疑惑の言葉が、次々に広がっていく。
 最初はマルティーナに憤りを感じていた者たちも、新しい命を宿しているらしい腹部を見ると、痛々しくてとても批判できるような状況ではなかった。
 行き詰まった怒りは皇家へと向かっていった。

「そもそも先に婚約宣言をしたのは、第二皇子のほうだろう?」

「彼女はさんざん弄ばれた挙げ句に捨てられたんだ」

「信じられない……! お腹には皇子の赤ちゃんがいるのよ!?」

 徐々に広がっていく皇子への不満に、監視の兵士たちは「静まれ!」と叫びながら武器で脅す。そんな強固な素振りも、民衆たちの不満や懐疑心を加速させるのだった。

「この女は妊娠などしていないっ! 宮廷の医師にも確認済みだっ!」

 ついに壇上で処刑人の一人が大声で訴えた。

「そんなの、いくらでも隠蔽できるだろう!」

「そうよっ! 子供には罪がないのに!」

 再びそこら中から怒号が聞こえる。だが処刑人は、粛々と準備を開始した。

「やめてっ!」

 マルティーナは抵抗を続ける。しかし今日は暴れないようにしっかりと緊縛され、逃げ出すことが出来ない。

「この子は次期皇帝の嫡子なのよっ!? 帝国の宝なのっ! わたしは国母になる存在なのよっ!!」

 ガラスを爪で引っ掻いたような彼女の声が響いた。亡霊が闇の底から叫んでいるみたいだ。
 彼女の頬はこけ、目元は窪んで、あんなに魅力的だった碧色の円い瞳も今ではどす黒く濁っている。

 マルティーナは何やらわけのわからない言葉を叫び続けて、今度は観客たちに恐怖心を植え付けた。
 誰もが彼女は普通じゃないと感じた。それは、皇子の子供もろとも殺されるからか……はたまた、最初からおかしくなっていたのだろうか……。
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