もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「そこまでだ」
忙しない議会に、皇帝の声が鳴り響いた。落ち着いた重厚な声音に、すぐさま場に緊張感が走る。
「帝国の臣民は、余の子供。慈しむべき子の命を理由なく奪うなど言語道断。
ヴィットリーアは、今この時より廃后、貴族籍も剥奪とする。そして、魔女のマナの人工計画に加わった者は……皆、処刑だ」
次の瞬間、戦場のような雄叫びが溢れた。それは歴史に残るほどの決定事項だったのだ。
「お待ちください、陛下っ!!」
皇后の一層大きな金切り声が、会場の雑音を掻き消す。
「皇太子は、魔女を婚約者にしているではありませんかっ!? 私より、そちらのほうが問題でしょう! 忌々しい魔女が、未来の帝国の母になっても宜しいのですかっ!?」
「お前も魔女裁判を見ただろう。リグリーア伯爵令嬢は魔女ではなかった」
「そんなのっ、いくらでも偽造できますっ!!」
「本物の魔女だったら、偽造できまい。魔女の魔法は、どのような魔法もを貫くかなら」
「それは、皇太子が――」
「連れて行け」
「はっ!」
皇帝がゆっくりと踵を返す。
同時に騎士たちが廃后を拘束した。
「無礼者っ! 私は帝国の皇后だぞっ!」
「あなたはもう貴族ですらありません」
「離せっ! 陛下っ! 陛下あぁぁぁっっ!!」
ヴィットリーアは力の限り叫ぶ。だが、皇帝は既にこの場を離れている。
ふと、廃后と皇太子の目が合った。途端に彼女の顔がみるみる醜く歪む。
「おのれえぇぇぇ……お前のせいだっ!!」
ヴィットリーアは一瞬の隙を突いて、騎士たちの手からするりと抜け出した。そして、指輪の魔石に体内のありったけのマナを注入する。
「死ねっ! 皇太子っ!!」
あの人工の魔女のマナと同じ、黒い雷がレオナルドに飛んで行く。
だが、彼は冷静な顔をして、
――バチンッ!
魔法を発動させて、廃后の攻撃を打ち消した。
「き、貴様……その、力は……!?」
ヴィットリーアは大きく目を見張って身体を硬直させる。
皇太子が今使った魔法は、文献で見た魔女のマナを無効化するという――……、
「そういうことか…………」
彼女はがっくりと項垂れて、それからはくたびれた人形のように動かなくなった。