もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜

10 赤い瞳

「その赤い瞳は……いつからだ?」

「えっ……!」


 キアラは驚きのあまり息を呑む。
 なんて答えたら良いかすぐには決められずに、じっとレオナルドを見つめた。

 彼も彼女の瞳をじっと見つめ返して、静かに答えを待った。
 昼間の王都は賑やかなはずなのに、二人のあいだは一瞬で張り詰めた空気に変化する。

 ややあって、

「キ……キアラ様は一週間ばかり高熱で寝込んでいたのです! おそらく、その際の後遺症だと思います!」

 主人が困っていると判断したジュリアが助け舟を出す。
 彼女の張り上げる高い声に、キアラは緊張が溶けた気がして、密かにほっと胸を撫で下ろした。

「ほら、充血のようなものですよ! ね、キアラ様?」

「そ、そうね。目の病気かもしれないので、これからお医者様に診てもらおうと思っているのです」

「……充血というものは、目の血管が膨張して赤く見える現象だな。それは結膜で起こることであって、瞳孔にまで及ぶものではない」

「っ……!」

 理屈っぽい男だと、キアラはうんざりする。隣でジュリアがとても不快そうに顔をしかめていた。

 なんて面倒臭そうな男。
 初対面の時から薄々感じていたが、彼とは根本的な波長が合わない気がする。
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