もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「やめろ。リグリーア伯爵令嬢」
次の瞬間、レオナルドが彼女のマナを弾き飛ばした。
暗闇に堕ちた感情は泡のようにパッと消えて、彼女ははっと我に返る。
見ると、皇太子が己の冷たい手を握っていた。
「今ここで公爵令息を殺したら、君の人生も終わるぞ。良くて修道院送り……最悪は、処刑だ」
処刑。
その恐ろしい言葉が、彼女の正気を完全に戻した。
「わ……私は…………」
キアラの身体がみるみる脱力していく。同時にあんなに膨大なマナもしぼんでいって、心にぽっかりと穴が空いたみたいに彼女は茫然自失となった。途端に床に跪いて、重力に身体が持って行かれる。
「お、おい!」
レオナルドは、このまま床に溶けてしまうんじゃないかと思うくらいに力の抜けたキアラの肉体を、慌てて支えた。
「大丈夫か?」
「っ……」
床にへたり込んだままの彼女は、堰を切ったようにボロボロと涙を溢れさせた。
(なんで……なんでっ……!!)
彼女過去六回分の記憶が、脳裏に現れては消え去っていく。
好きで、好きで、たまらなくて。愛していて。だから、私は……ダミアーノ様のために…………人だって殺したのに………………。
(人の心をなんだと思っているの……!)
とてつもなくやるせない気持ちを何処へぶつければ分からずに、彼女はただ泣くしかなかった。
虚しい。
悔しい。