もう、あなたを愛したくありません〜ループを越えた物質主義の令嬢は形のない愛を求める〜
「っ……!?」
驚愕のあまり誰も声が出なかった。キアラもジュリアもアルヴィーノ侯爵も、目を白黒させている。
レオナルドは彼らの反応を気にせずに、淡々と話を続けた。
「ヴィッツィオ家には金貨10000枚と、南部の土地も付けよう。これなら彼らも何も言えまい」
「あ……」
そういうことか、とキアラたちは合点した。
手切れ金を支払っての婚約解消。しかも、その後は皇太子と婚約だ。社交界では瞬く間に悪い噂が広がるだろう。皇太子が伯爵令嬢を奪った――と。
最悪の事態は、キアラとレオナルドが不貞を行っていたと吹聴されるかもしれない。
過剰なほどの手切れ金は、その醜聞をヴィッツィオ家に否定させる圧力でもある。金で黙らせるのだ。
「ありがとうございます。……ですが、本当によろしいのですか?」
「あぁ。君を手に入れられるのなら、これくらい大したことはない」
「っ……!」
途端にキアラは顔を上気させる。恥ずかしさが全身を駆け抜けてゾワゾワした。
(て、て、手に入れるって……! な、なにを、おっしゃっているのかしら……)
狼狽する彼女の様子を、彼は不思議そうに眺める。
(ん……? 俺、何か不味いことを言ったか……?)
気まずい二人の様子をニヤニヤと薄笑いで見守っていたアルヴィーノ侯爵が追い打ちをかける。
「殿下、いくら伯爵令嬢のことを強奪するほど愛しているからって、未婚の令嬢にはストレートすぎますよ」
「はぁっ!? ごうだ――ストレート!? どういうことだ?」と、不穏な言葉に焦りだすレオナルド。
「いや、だから……さっき殿下は手に入れたいっておっしゃったでしょう? そういうことは、もっと親しくなって尚且つ二人きりの時に言ってあげてください。優しく。愛を込めて」
「っ……!」
「っ……!」
侯爵の揶揄に、二人は顔を真っ赤にさせて身体を硬直させる。
一拍して、
「っち……ちがっ……! おれ……わ、私は、ただ、伯爵令嬢のマ――」
しどろもどろに言い訳を並べようとしたレオナルドだが、つい魔女のマナに言及しそうになって再び口を噤んだ。
(あのことは俺たちだけの極秘事項だった……!)
皇太子が普段見せない狼狽する姿は、侯爵には新鮮で面白かった。同時に、我が主も年相応の青年だったのだと、嬉しくもある。
「え? なんですか?」と、わざとらしく聞き耳を立てる素振りをする。
「だから、だな……。伯爵令嬢は、私にとって大切な存在なのだ……っ……!」
(たっ………………)
キアラの顔が林檎よりも赤く染まって、侯爵もジュリアもニヨニヨと意地悪な笑みを浮かべた。
「あーっ、侯爵様!」察しの良いジュリアが動いた。「私、宮殿を見学してみたいですー! 商会の娘として、後学のために良いものをたくさん見ておきたいのです!」
彼も彼女の意図に乗った。
「あぁ〜、そうだな! 宮殿には歴史的価値のあるものも多い。私が案内しましょう!」
そして、二人は高速で辞去をした。