完璧主義な貴方の恋のお相手は、世話が焼けるくらいがちょうどいいでしょう?
 シェリーの言っていた通り、マックスはすぐに二人を認めてくれた。

 それどころか、シェリーの両親は揃って大変な喜びようだった。もちろん、オリビアたちも。

 どんな言葉で認めてもらおうか、百通りくらいのシミュレーションをしていたリチャードだったが、あまりのトントン拍子に進むので、もしやこれは夢の中ではないかと疑うほどだった。


 しかし、二人よりもまず、オリビアとアーチボルト伯爵の結婚式の方が先だった。

 たっぷりと袖の膨らんだ、真っ白なドレスに身を包んだオリビアは、世界で一番美しかった。細やかな刺繍が施されたベールには、オレンジの花があしらわれている。

「綺麗ね……」

 シェリーは涙ぐみながら、温かい拍手を送っていた。

 幼い頃から通っていた教会で結婚式を挙げることは、オリビアの昔からの夢だった。その為、盛大な式を執り行う前に、身内だけでまず式を挙げようと、アーチボルト伯爵が提案したらしい。

 リチャードとシェリーの横には、当然ながらコールも一緒に座っていた。薄情そうにも見える彼が、誓いのキスの際に涙ぐんでいたのをシェリーは偶然見てしまった。リチャード曰く、彼は涙脆い性格らしい。

 ウィンストン家の人たちも、当然招待されている。久しぶりに見たアランは、また一段と逞しい身体付きになっていた。シャツの胸のボタンが弾けてしまいそうなのを、ナタリーがいそいそと直しているのが見える。

 アランとナタリーは、ついに結ばれたらしい。ほとんど毎日送り合っていたという箱一杯の手紙は、二人の愛の証だった。
 
 ナタリーとシェリーの話題はもっぱら自分達の"理想の結婚式"についてだ。

 今も教会の外で新郎新婦の登場を待ちながら、「あの置物が素敵だ」とか、「あの花を使いたい」だとか、ああでもない、こうでもないと話している。

 ふと、アランと視線が合った。アランは少し微笑んで"お互いに大変だな"という目をしている。

「リチャード、これを頼んでもいいかしら」

 シェリーが申し訳なさそうに、持っていた小さな鞄をリチャードへと託した。

「花嫁が投げたブーケを受け取ると幸せになれるのよ」

 見ると、ナタリーもしっかりとアランに鞄を渡していた。

「貴方の分も幸せ、貰ってくるわ」

 相変わらずこういうことに血が騒ぐのか、シェリーは腕の関節を伸ばしながら嬉々として飛び出していった。

 どこかで"次に結婚出来るように"と、未婚の女性が参加すると聞いていたが、ここでは違うようだ。あくまでも"幸せのお裾分け"らしい。

 ブーケトスを待ち侘びて、わらわらと女性達が集まっている。
 コールドウェル家と、アーチボルト家の母親まで後ろの方に控えめに参加していた……いや、二人ともドレスの裾を僅かにたくし上げて飛び出す気満々のようにも見える。

 二人が登場し、再び温かい拍手が起きた。シェリーの柔らかそうな頬が、ほんのりと赤く染まっている。

「幸せだな……」

 リチャードが心の中で思っていたことと同じことを、隣のコールが同じように呟いた。

「……そうだな」

 オリビアの投げたブーケが大きく弧を描いた。華やかな歓声が上がる。彼女は高く飛ばし過ぎた。それに、コントロールも壊滅的だった。

 群がる女性達を越えて、横に大きく軌道を逸れたブーケは、お約束通りコールの手の中に収まった。

「え、いいの?」

 驚いているコールに、女性陣から温かい拍手が送られた。

 シェリーも拍手をしながら、「おめでとう、コール」と嬉しそうに戻ってきた。

「おつかれさま」

 不完全燃焼だったようだが、無事に闘いを終えて戻ってきたシェリーに声を掛けると、彼女は声を潜めて言った。

「リチャード、私もちゃんと練習しておいた方がいいかしら」

「ええ、付き合いますよ」

 どうやら姉のブーケトスを見て不安に思ったらしい。大真面目な顔で何を言い出すのかと思ったら……、とリチャードの頬が緩んだ。

「……そうだ、次のデートですが、少し行きたい所があるんです」

「いいわよ、貴方とならどこまでも」

 シェリーはそう言って頼もしく笑った。彼女となら本当にどこまでも行けそうだ。

 ーー俺も喜んでもらえるだろうか。

 リチャードはポケットに手を突っ込んだ。くしゃくしゃの紙の感覚を確かめるように触れる。失くさないようにと、再びポケットの奥へと仕舞い込んだ。
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