放課後怪談クラブ

【CASE4 夜の学校は思い出がいっぱい!】

「菜々ー、レミー、行こー」

 給食が終わるとすぐに由美子が教室に来る。
 もうすっかり、こっちのグループとも仲良しになった由美子はみんなと手を振り合いながら、私の腕を引っぱった。

「ちょっと由美子、急ぎすぎじゃない?」

「だって一大事じゃん! ほら、菜々も行くよ」

「はいよー!」

 菜々ちゃんがジャンプして席を立つと、私たちは一緒に教室を出て行く。
 昼休み。
 向かう先は理科準備室だ。

「せんせー! おじゃましまーす!」

 由美子が笑顔で扉を開けると、人体模型とガイコツに隠れた棚の奥からひょっこりと先生が顔を出した。

「おー、また来たのか。なんだ? 内緒話すんのか?」

 おじいちゃん先生の滝松先生。
 優しくほほ笑んで、おいでおいでをする仕草がちょっとかわいい。

「失礼します」

「しつれーしまーす!」

 私と菜々ちゃんもそのまま理科準備室に入っていく。
 棚とかなんかいろんなものがごちゃごちゃしてるけど、イスはちゃんと3脚あるから、私たちはそれぞれ腰を下ろした。

「……先生、また盗み聞き?」

 チラリと見やると、先生はカップを片手に「もちろん」とうなずいた。

「若人の青春話はいつの時代も面白いもんだ」

 カカカと笑う先生はどうしてか、イヤミがない。おじいちゃんだから?

「先生にも青春あったの? やっぱり?」

 由美子が聞くと、先生は笑った。
 そして、一言「もちろんだ」と言った。
 まぁ、そりゃそうだよね。


 ともあれ、なんでいきなりこんな事になってるかと言うと……、

「じゃあアキラくんが昨日、告白された話だね!」

 という事なのである。
 まぁ、順を追って話そう。
 運動会が終わって、ほどなくして菜々ちゃんは由美子に全部を話してあやまった。
 そりゃ、そんな仲良くもない女子からいきなりあやまられた由美子はすんごい困っていたよね。ま、それを予想して私も一緒についていったんだけど。
 でもさ、呪いなんて誰も信じるわけないじゃん?
 だから由美子はケガと呪いは関係ないよって笑ってた。
 で、さっきも言った通り全部を話しちゃったんだよね。菜々ちゃんは。
 アキラを好きな事ももちろん話した。
 しかも、私もアキラが好きだってこともね……。
 そこで、まぁ由美子にも許してもらって、菜々ちゃんは緊張の糸が切れたのかワンワン泣いちゃって、私と由美子が困っていた時に滝松先生が通りかかって、この理科準備室で紅茶を淹れてくれたの。まぁ、それでも泣き止むまで時間かかったけど。
 でも、なんでかその時の紅茶はすごく優しい味で、先生は安いティーパックのやつだっていってたけど、でも本当に美味しかった。
 それから、私たちはアキラに恋してる同盟を組んで(組まされて)、滝松先生の許しも得ないまま、ここ理科準備室を秘密基地にしてるってわけ。
 なんだかむずがゆいけど、学校に秘密基地あるってなんかいいじゃん?
 しかも結局、滝松先生も公認っぽいし。
 そして、今さらわかったんだけど、なんか私たち3人気が合うんだよね。
 と、そんな感じで話は戻ります。

「ってかさー。アキラってそんな、仲良い女子いたっけ? レミ以外で」

「由美子……だから、私は」

「ごーめんごめん! からかっちゃった!」

 クスッと笑う由美子はやっぱりかわいい。
 由美子がモテるのは女子でもわかる。

「まーまー、お二人さん。アキラくんに告白したのはうちのクラスの女子だよ。三枝さんって子!」

「んー、知らないなぁ」

「そりゃ由美子はクラス違うからね」

「うわっ! レミ、その言い方!」

「さっきのお返しですぅー」

 意地悪く言ってやると、由美子が小突いてくる。
 私も小突き返す。

「レミの意地悪! んで? 結局、フったの?」

「うん。そーみたいだよ?」

 菜々ちゃんは言いながら首をかしげた。

「でも断り文句を聞いたら、なーんか変なんだよねー」

「どういうことよ?」

「なんかねー、行かなきゃいけないから。とかなんとか。三枝さんもアキラが何を言ってるのかよくわかんなくて、あんまり覚えてないってさ」

「それって、単純にフラれたショックで気が動転してただけじゃない?」

 由美子のコメントはけっこうきびしい。
 まぁ、確かに誰でもそう思うだろうな。そんな断り文句。
 でも、私にはアキラの言いたい事がハッキリとわかってしまう。

 だって、彼らは明日「裏世界」へ帰るのだから――――。


 ――――……。



「どーしたレミ? 食欲ないのか?」

「へ?」

 家での夕食時、父さんの声に私は顔を上げた。

「ん? なんか、前にもこんな話したような……」

 首をかしげる父さんの言葉で、私はヨーコの表彰式の事を思いだす。
 あー、そういえばそんな事もあったなぁ。
 ヨーコ、あれからずっと絵ばっか書いてるから、きっと裏世界でも絵を描くんじゃないかな? っていうか部室の画材はどーするんだろう? 持って帰れるの?

「あ、そうそう。そういえばこの前の運動会の写真!」

 ほら! と食卓に封筒が置かれる。

「良い写真ばかりだよなー。父さんカメラの才能あるかもなぁ」

 自信満々に言う。どうやら早く中を見て欲しいみたいだ。

「はいはい、見ますよ」

 箸を置いて、封筒の中を確認する。うげっ! けっこうあるなぁ。
 なるべく私は顔に出さずに写真を取りだして1枚ずつめくっていった。

「もー、ご飯中なのに」

 お母さんの小言もなんのその。私は写真をどんどんめくっていく。
 うーん、なんか私の必死な顔ばかりでイヤだな。
 あの時、ムカデで失敗して私はもう必死になってたしな。
 うわ、リレーの時の顔ひっどいなぁ。

「……あ」

 私の手が止まる。

「おー! それな! 自信作だ! 良い写真だろー?」

 父さんはすごく嬉しそうに言った。

「うん……」

 でも私はそれしか言えなくて、ただ最後に4枚重なっているその写真をずっと見ていた。
 アキラとミノルとヨーコ、そして私。みんなで笑っている写真。

「ん? おいおい! どーした? なんで泣いてるんだレミ?」

「え……?」

 顔を上げた瞬間にほっぺたを涙が伝っていく。
 あ、本当だ。
 私、泣いてる。

「あらあら、どーしたの? 運動会くやしかった?」

 お母さんは相変わらず的外れだ。
 いつも通り。
 そう、いつも通りの事。
 こんな日々がまだまだ続いてく。
 続いてくのに、もうすぐ私の日常は変わっちゃう。
 みんな、居なくなっちゃうんだ。

「ごめん、ごちそうさま……」

 席を立って、部屋に飛びこむ。いきおいそのままにベッドへダイブしてまくらに顔をうずめながら私は静かに泣き続けた。



 ――――……。



 ――――そして、翌日。

「いやー、マジで助かったよ。レミ名推理だったな!」

 放課後、いつもの部室でいつものようにアキラが笑顔で話す。

「まぁ、俺は最初からにおうって思ってたけどな」

 相変わらずの自信家だ事、ミノルさん。
 トイレだけにね。とは言わないよ。

「……やっと、だ」

 うん、ヨーコ。そういう時は笑っていいんだよ。うつむき加減に言わないでよ。
 まったく、もう。
 本当にいつも通りで、イヤだな。
 このまま、最後までいつも通り。でも、その最後はもうすぐやって来るんだ。

 ――――あの日、運動会の後に私が発見した事実を3人は夜に確かめに行ったらしい。

「マジだった! レミすげーな!」

 その翌日、教室でアキラにそう言われた時、私はどんな顔をしていただろう。
 私の推理は当たっていた。
 もちろん、それは3人のために言ったのだから、嬉しい。
 けど、このどうしようもない寂しさはなんなんだろうか。

「本当に3人で行ったら鬼門があったんだ!」

 嬉しそうに言うアキラに教室のみんなは不思議な顔をしていた。
 そりゃそうだ。
 この中で学校の新校舎3階の男子トイレに「鬼門」があるなんて知ってるのは私とアキラだけ。なんなら「鬼門」も知らないだろう。
 誰も知らないのに流れてきたウワサ。
 キッカケはそこだった。
 ずっと私には引っかかっていた。
 誰もいないの「誰」とは一体なんなのか。
 そして、ミノルが裏世界へ飛ばした黒いモヤが飛んで行った場所が新校舎の3階。
 やはり、あそこには何かあるのではないか?
 そんな疑惑を持った時に私は気づいてしまった。
 もしかして、ウワサはこの世界の「誰」でもない者が流したのではないか?
 だとすると、この世界の存在ではないアキラ、ミノル、ヨーコだけで確かめに行けば、もしかしたら「うめき声」と共に鬼門が開くのではないか?
 そんな答えが私の頭に浮かんだんだ。
 あの時、鬼門が開かなかったのはこの世界の「誰か」である私が居たから。
 だったら、この世界の誰でもない3人で行けば……。
 そして、その予想は当たっていた。
 おかげで、3人は帰れることになった。
 良かったじゃないか。これで晴れて私はお役御免。
 やっと、この放課後の日課から解放されるんだ――――。


「――――それじゃ、私、行くね」


 私はおもむろに鞄を持って席を立つ。もうとっくに完全下校の時間は過ぎてる。

「おう! 写真サンキューな!」

 アキラが手に持つのは、あの4人で撮った写真だ。ミノルもヨーコも手に持っている。

「うん。大切にしてよね」

 手を振りながら、私は逃げるように部室を出て行った。
 ダメだ。どーしても泣いてしまいそうになる。
 旧校舎の階段を走るように下りていく。
 今までずっと、めんどくさい気持ちで上っていたはずのここが、なんだか寂しく感じてしまう。
 そっか。
 私、いつの間にか楽しんでたんだ。
 あんなにめんどくさくて、恐怖さえ感じていた放課後怪談クラブが。
 あそこで過ごす時間が。
 みんなの事が。
 いつの間にか、大好きになってたんだ。

「――――おや? 水沢くんじゃないか。どうしたこんな時間に?」

「あ、すみません! すぐ帰ります!」

 昇降口で後ろから声をかけられる。
 振り向きざますぐに頭を下げると、見慣れたサンダルが目に入った。

「滝松……先生?」

「なんだ、泣いてるのか。何かあったのかい?」

 やっぱり泣いちゃってたか私。
 でも、先生が優しく笑うから、ホッとしちゃってまた涙があふれてくる。

「……先生ぇ」

「おー、なんだなんだ?」

 思いっきり目の前で泣きだしたからか、さすがの滝松先生もビックリした声を上げた。

「ま、まぁまぁちょっと落ち着きなさい。ほら、紅茶飲むか?」

 コクンとうなずくと「ほいきた!」と先生はパンと手を打った。
 そのまま私は先生の後ろをついて行って、理科準備室もとい秘密基地に入った。

「ちょっと待ってなさい。紅茶淹れるから」

 先生は手際よく準備する。私はその背中を眺めながら、本当はもうだいぶ涙も落ち着いてるんだけど、せっかくなので言わないでおく。
 ケトルが蒸気を噴き出すと、いよいよ私はアルコールランプとビーカーでお湯を沸かした方が理科室っぽいのに。とか考えられるくらい気持ちも戻っていて、なんだか一生懸命紅茶を淹れてくれている滝松先生に申し訳なくなってきた。

「はい。熱いから気を付けてな」

 先生からカップを手渡される。私は「ありがとうございます」と紅茶に向かって息をふきかけた。

「で、何があったのかね?」

 先生はイスに腰かけて、カップを置く。

「言わなきゃ、ダメですか?」

 わたしは両手で持ったカップから顔を上げた。
 目の前の柔らかい笑顔はゆっくりとうなずいた。

「あぁ。青春の話は……」

「いつの時代に聞いても面白い。ですよね」

 私が先に言うと、先生はカッカッカと笑った。

「先生は友達とお別れとかいっぱいしてきました?」

 私の質問に先生はうなずく。

「あぁ、もちろんだとも。人生は出会いと別れの連続だ。今もそうだよ」

「そっかぁ。それってどうやって乗り越えました?」

「ん? 乗り越える?」

「その、悲しさ。とか、寂しさみたいなのって……」

 もじもじとした手でカップをいじると、先生は「なるほど」とつぶやいた。

「確かにね。どうやってきたかなぁ。いや、どうにもできないからこそ『別れ』なんじゃないかな。何もできないから、どうすることもできないから悲しいし、寂しいんだ」

「でも、それじゃ。なんか……」

「納得できないだろ? それでいいんだよ」

「え?」

「そうやって折り合いをつけないのが君たち「若さ」の特権だ。色んなものに触れて色んな事を知って、大人になっていくんだから」

「私はまだ子供。って事ですか……」

「そう。そして、別れは大人になってもどうする事も出来ない」

「そう、ですか……」

 持ち直してきた気持ちがズンと沈んでいく。
 カップに口をつけると、紅茶はもう飲みごろの温度になっていた。

「さ、そろそろ帰ろう。武田さんに怒られてしまう」

 カップを置いて滝松先生は白衣をイスの背もたれにかける。

「あ、警備員さん。今日も武田さんなんですね」

「おや? 知り合いなのかい?」

「へ? あ、いやいやいや!」

 やっばい! つい、口にしてしまった。
 あのミノルの十字架を取り返した日は内緒の出来事なのに。

「さ! 先生行きましょう! 帰りましょう!」

 あわてて紅茶を飲み干して、カップを手渡すと先生は小首をかしげながらそれを受け取って、流しに置いた。
 そのまま2人並んで昇降口を出る。
 なんだかなんだか不思議だ。
 先生と一緒に帰るなんて。

「さて、僕は駅の方だけど君は?」

「あ、私は反対側です」

「そうか。じゃあここでお別れだね。また明日」

 校門の前で手を振る先生に私は鞄を前に持って頭を下げる。

「今日は、ありがとうございました」

「はっはっは! いいさ。私も君たちの話を聞くと青春時代を思いだすよ」

 あぁ、そうだ。と先生は人指し指を立てる。

「水沢君にひとつアドバイスだ」

 その人指し指は真っすぐ私に向けられた。

「別れはどうする事も出来ない。でも、どうにかできる事がひとつだけある」

「え? ひとつだけ?」

「そう。ひとつだけ。それはね……」



 ――――別れ方。だよ。



「別れが悲しいほどに良い出会いをしたなら、別れもまた美しくありたいものだな」

 先生はまだ私を指さしている。
 なんだか、私は問題を出されているみたいだ。
 さぁ、キミはどうする?
 出会いは選べない。しかし、別れ方は選べる。
 キミはどんな別れ方を選ぶんだ?
 そんな先生の声が聞こえる気がした。

「先生!」

 私は鞄を肩にかけて、唇をギュッとむすび、もう一度頭を下げた。

「すみません! 忘れ物しました! 先に帰っててください!」

 勢いよく頭を上げると、先生は優しい笑顔で指を校舎に向けた。

「行きなさい。若人。忘れ物はあそこにあるんだろう?」

 偶然なのか、先生の指は新校舎に向けられていた。
 3階を指さしているのかはわからない。でも、そこを指さしている気がしたんだ。

「はい! ありがとうございました! また明日! 先生!」

「あぁ! また明日!」

 大きく手を振る先生に手を振り返し、私は校舎へと戻っていく。
 昇降口で上履きに履き替えて、そのまま階段を上っていった。
 伝えたい。
 お礼とか、恨みぶしとか、そんなんじゃなくて。
 なんだろう。何を言えば良いのかわからない。
 けど、それでも私は今のこの気持ちを伝えたいんだ!

「あれ? なんで?」

 階段を3階まで駆け上がったのに、私はなぜか1階に居た。

「ちょっと、待ってよ……もしかして!」

 ミノルの術? 3階をこの世界から切り離してるの?
 いや、違う。そんな術は見た事も無い。

「だとしたら……」

 考えるんだ私。
 今まで見てきたミノルの術。彼ならどうする?
 鬼門を開ける条件は、学校に「誰」も居ない事。
 だとすれば……。

「そうか。この世界の誰も居ちゃいけないから、来させないようにしてるんだ」

 はじめてわかったよ。術をかけられる側の気持ちが。
 でも、どうしよう。
 このままじゃ、会えないままお別れに……。

「あー、もう! 私が人間じゃなければ! ……ん?」

 人間じゃなければ……?
 ちょっと待って。
 確かさっき、滝松先生と話してて武田さんの話になって……そしてミノルの十字架を取り返す日を思いだして……。

「……十字架! キーホルダー!」

 私は鞄の中をあさる。
 そうだ。おまもりにもらって返し忘れてた十字架のキーホルダー。

「あれに込められた術は確か……あった!」

 鞄から小さな十字架のキーホルダーを取りだす。

「これで、吸血鬼になれるはず!」

 私はすぐに十字架をにぎりしめて、願った。

「おねがい! おためしで私を吸血鬼にして!」

 にぎりしめた手がピカッと光ると、その光が私を包みこむ。

「こ、これでいいのかな?」

 光が収まっても、私に変化は見られない。
 羽も生えてないし、キバも……。

「あ、キバ生えてる!」

 手鏡で確認すると、小さなキバが私に生えていた。これじゃ、犬歯と変わらないけど。

「これで、私はこの世界の存在じゃなくなったはず!」

 それなら、行けるはずだ。

「待ってて。まだ、行かないでみんな!」

 もう一度階段を駆け上がる。
 


 ――――行けた!



 3階に行けた! よし! このまま男子トイレだ。
 ろうかを全速力で走る。
 もちろん、怒る先生はここにいない。
 だから遠慮なく走らせてもらった。

「ほんとだ……うめき声が聞こえる」

 まだ鬼門は開いている。なら、きっとまだ居るはず。
 私は大きく息を吸った。
 そして、



「待ってぇええええ! まだ行かないで!」



 大きく叫んで男子トイレに飛び込んだ。

「うわっ! なんだよレミかよ!」

 ビックリしたぁ。と目を真ん丸に見ひらいたアキラと目が合う。
 アキラだ。
 ミノルも、ヨーコもいる。

「みんな、良かった。まだ居た……」

「いや、まだ居たはいいけどよ。お前どうやってここに来たんだよ?」

 顔に困惑が見えるミノルに私は十字架のキーホルダーを投げ渡した。

「ごめん。やっぱり使える術だったわ」

 受け取ったキーホルダーを見て、ミノルは肩をすくめる。

「なるほどね。安心しろよ。寝て起きたら人間に戻ってっから」

 良かった。それが聞けてマジで安心したわ。

「……レミ、いま吸血鬼?」

 小首をかしげるヨーコに私は笑う。

「そーみたい。全然実感ないけど」

「……でも、レミなら吸血鬼でも、好き」

「うん。ありがとう。私もヨーコが好きだよ」

 あと。と私はミノルとアキラを見る。

「2人も大好き!」

「おう! 俺もレミ好きだぜ!」

「ったくよ。また女をとりこにしちまったか」

 快活に笑うアキラに照れるミノルはやっぱり相変わらずだ。
 でも、私が言いたかったのはそれだけじゃなくて……えっと。

「おい。お前ら鬼門閉じちまいそうだ。そろそろ行くぞ」

 ミノルが男子トイレに広がった真っ黒い球体を見て言う。
 あぁ、さっきから気になってたんだけどそれが鬼門なんだ。
 やっぱり、ブラックホールみたいじゃん。
 って、そうじゃなくて!

「あの! みんな!」

 私の声に3人が振り返る。

「……どーしたの?」

 たずねてくるヨーコに私は何を言ったらいいのかわからず、うなる事しか出来ない。

「おいレミ。早くしろ。マジで時間がねーんだ」

 ミノルが急かすけど、言葉がでてこないんだってば!

「なぁレミ!」

 アキラの声に顔を向けると、彼はあの写真を私に見せびらかすようにヒラヒラさせた。

「楽しかったよ! またな!」

 ニカニカ笑って、アキラは親指を立てる。
 そうだ。楽しかったんだ。私は、放課後怪談クラブが楽しくて、大好きで、それで、それだから……。
 あぁ、行っちゃう。みんなが行っちゃう。
 違う。私がみんなに伝えたいのは……。

「みんな!」

 私もポケットから写真を取りだして、前に差し出した。






「――――放課後怪談クラブは永久不滅だよ!」






 私の言葉に3人は振り返って拳を向けてくる。

「おう! あったりまえだ!」

「とーぜんだろ。何言ってんだ」

「……ずっと、一緒」

 黒い球体の中に3人の姿が消えていく。
 がんばれ私。泣くな。泣いちゃダメだ。

「忘れないから! ぜったい、忘れないから! だから!」


 ――――忘れないでね!


 最後の言葉は聞こえたかわからない。
 それでも、3人の姿が消えて、鬼門が無くなるまで私はちゃんと笑っていた。
 私が選んだお別れの仕方。まちがってないよね?
 ねぇ、先生? これでいいんだよね?

「――――っ!」

 そして、私は声を出さず泣いた。

 誰も居ないのに、誰にも気づかれないように、静かに涙をこぼした。














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