助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「ふん、どうもこうもない。部屋は寒いし、寝床は固い。ハーシアはうるさかったし……この俺に皿まで洗わせたんだぞ。だが……」

 彼はその思い出をじっくりと胸に留めておこうとするかのようにそっと目を閉じると、穏やかに笑った。

「悪くはなかった……わずかでも、俺はここに居てもいいんだと、そんな気持ちにさせてくれたんだ……」

 それを聞いたメルは、すんと小さく啜った鼻の音を誤魔化すように呟いた。

「……またいつか、来れるといいですね」
「ああ」
 
 座席に隣り合い……窓から覗く眺めを栞として記憶に挟み。
 名残惜しそうな王子の横顔と共にメルは心の中で祈った。あの親子の幸せと、そしてまた、いつかどこかで巡り会えることを。
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