助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「ほ~っ……城に上がる前にいい縁起ものを見たな。しっかり目に焼き付けておくか」

 ふたりに気付かれないようメルは、聖職者の姿をちらりと見て、目を背けた。
 こんなことではいけないと思うのだが、彼らを見たことで、少しだけ祖母を亡くしたときのことを思い出してしまったのだ。


 ――あの時のことはどうもよく覚えていない。
 今年の、春先の寒い朝。そうだ、たしかあの日は、どこからか家に入り込んでいたチタが、起こしに来てくれたのだ。
 眠い目をこすり、冬場は体調を崩すことが多くなった祖母の部屋に、朝食の粥を作って持って行ったが、ノックに返事は返らずメルは扉を開ける。
 そしてベッドに眠っている祖母に声を掛けた。

『おはようおばあちゃん、ご飯は食べられる?』

 答えはない。皿と水のグラスを乗せた小さな盆をテーブルに置き、メルは彼女を起こしてあげようと近くに寄った。
 そこでふと気付いたのだ。彼女から命の気配がしないことに……。
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