助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね

ルシェナの冬祭り

 王国兵の追跡がないか気を張っていたメルたちを出迎えたのは、街のそこかしこを彩る花やカラフルな吊り旗。
到着したルシェナの街は、祭りで大きな賑わいを見せていた。通りをゆく人々も皆、笑顔を浮かべ、冬の訪れを祝っている。
 ラルドリスが顔を輝かせて手を広げ、その光景に興奮した。

「おお~っ! これがルシェナの祭りか! なあシーベル、この華々しい雰囲気は王都のパレードにも引けを取らんな! しかし、なんだってこんな時期に祭りを?」
「なんでも、この地方は古来より季節をそれぞれ異なる神が管理していると考えられており、この祭りは、カルチオラ山におわすという冬の神ドゥマの願いを修道女が聞いたことから始められたようですよ。ほら、列になって歩いている教会関係者たちの姿が見えるでしょう?」

 シーベルが指を指すと、確かに道の中央で祈りながら、ゆっくりとこちらへ向かってくる一団がある。
 ひとり寂しく冬を越す神の嘆きを修道女が聞き届け、盛大な祭りで神を楽しませんとした。
 神はいたく喜び、以来冬山に迷い込む人々が居れば、子供の姿を借りてそれを導き、人里へと帰してくれるようになった。
 ――そんな内容の聖歌を合唱する彼らの姿は、祭りの雰囲気を際立たせるのに一役買っている。

「ああして祭りの期間中は一日に何度か、神父や修道女が街を周って聖歌や祝詞を捧げるのです。あの姿を見ることが出来れば幸運に恵まれ、次の年もつつがなく生きられるといわれています」
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