助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 襟にぶらさがったチタの返事に籠ごと放り出した薪が、カラコロと音を出し崩れた。
 先日この家に運びこんだ青年は、今は使われていない祖母のベッドに寝かせてある。目覚めを首尾よく知らせてくれたチタと共に、メルは小屋へ走った。

 奥で誰かが動く気配がしており、メルは少しの警戒を胸に抱きつつ、祖母の部屋に入り込む。すると、ベッドに腰掛けていた青年と目が合った。

「ん……あんたか。助けてくれたのは」
「え、ええ……」
「礼を言う」

 彼は顔周りを覆うカスタード色の金髪を手櫛で整え、こちらを見た。
 戸惑っている様子だが、それでも、輝くカーネリアンのような双瞳の力強さは、思わずメルの言葉を失わせるほどで……。

(綺麗……洗いたてのオレンジみたいな)

 これほど心奪われるものには出会ったのは初めてだ。
 実家の侯爵家にあった馬鹿高い宝石だって、ここまで瑞々しい光を放っては――そんな衝撃を受け、呆気にとられたメルはごくりと唾を飲む。
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