助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね

モゼウ伯爵

 突然現れた救援は、シーベルがルシェナで出しておいた手紙によるものだったようだ。
 まだ距離があるため、一行は王都入りを諦め、本日はそのまま、王国軍の部隊に天幕を張ってもらい夜営することにした。
 日が沈み、夕闇に遠くの稜線が溶け込もうとする時間帯……。

「ふむ、そなたがシーベル殿の手紙にあった魔女殿か。儂はボルドフ・モゼウ……アルクリフ王国騎士団団長、及び第一大隊の大隊長を務めておる。道中大きくふたりの力になってくれたと聞いた。本当に感謝する」
「メ、メル・クロニアです。よろしく」

 大きめの天幕の中で、部隊の統率者――齢五十を過ぎたくらいの白髪交じりの男性が、巨体を丸めるようにしてメルの手を握った。体型はいかついが、目尻に皺がありよく見ると愛嬌のある顔をしているようだ。

「丁重に扱って差し上げて下さいね。本当にこの度はメル殿に助けられっぱなしだったのですから」

 天幕の中で寝転がったシーベルが重ねて告げた言葉に、メルは恐縮する。
爆風の衝撃により体のあちこちを打撲し、右の鼓膜を負傷した彼だが、完全に聴力を失ったわけではないようで、従軍している医師からすると安静にしていればやがて回復するだろうとのことだった。
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