助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね

揺れ動く首謀者たち

 ラルドリスが戻ってきたその日、ザハールは自室で荒れに荒れていた。
 部屋中の調度品を叩き壊し、踏みつけにする。

「くそっ、できの悪い愚弟風情が……誰の許可を経て我が城に! 忌々しい、忌々しいっ……うがぁぁぁっ!」
(野蛮だこと……まるで聞き分けの無い幼児ね)

 部屋の隅に避難していたティーラは、辟易したように眉を顰め、それを見やっている。

「はぁっ、はぁっ……こうなったのも、貴様のせいだぞ、魔術師! またもしくじりおるとは愚図が……手品の種でも尽きたか!」
「面目御座いませぬ」

 部屋の中央でそれに巻き込まれつつも答えたのは、微動だにせず跪いていた魔術師であった。
 その髪や衣服はザハールに投げつけられた陶磁器の破片を被っており、頬には打撲の跡や薄い切り傷が走っている。なのに彼は、感情を波立てる様子もない。

「どうやら相手方に、魔の扱いに長けた人物が付いている様子。その者が魔物を打ち倒したのでしょう」
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