助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「そんなことはどうでもいいっ! 万が一、ラルドリスがこの城に居つき、臣下どもを懐柔して俺が奴を殺害しようとしていることが漏れたら、面倒なことになるかもしれん! 魔術師よ、早く奴を殺せ! さもなくば、お前をこの城から……いや、この国に居られぬようにしてやるぞッ!」
「分かっております……ですが、この場所に帰ってきた以上、身辺には細心の注意を払っておりましょう。しかも協力者がいるとすれば、そう簡単に表立って行動することも叶いませぬ。しばし……お時間をいただきたく」

 ザハールは、なおも平静な魔術師の襟首を掴み引きずり上げた。

「それはいつだッ! 言ってみろ」
「一月の後に……この国の重要な行事である、アルクリフ王国建国記念日が迫っております。その際に、王城でも祝賀の宴が開催されるはず。その場であの男の息子……第二王子には消えていただきましょう」

 そこで初めて魔術師の瞳が黒く底冷えのする光を放ち、激高していたザハールの心胆を寒からしめた。そこから感じられるのは単純な憎悪などではなく、相手の存在を何としてでも排除せんという、人らしからぬ冷徹な感情だ。

「ぐ、ッ……必ずだぞ。もう消えろ! 使命を果たすまでは顔を見せるな!」
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