助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね

それぞれの思惑

 来たるべき建国記念祭が近付き、メルはジェナが捕らえられている貴人牢へ出向いていた。
 あれ以来、度々彼女に請われて、様子を見に来たり話し相手になったりしている。本日は隣にラルドリスの姿はない。彼も色々と忙しいのだ。

「すみません、ジェナ様を解放するにはまだもう少しかかると思います」
「気にしないで。こうして誰かが会いに来て話してくれるだけでも、ずいぶん気が紛れるから」

 王妃はチタを膝に乗せ、メルが持ってきたクルミを与えて、齧る姿を楽しそうに見ている。

「可愛いわね。それに綺麗。まっすぐ食事だけに集中して……余計なことを考えないのね、この子たちは。だから、こんなに心を魅かれるのかしら」

 そうかもしれない。自然に寄り添う生き物たちの思考回路。彼らの目的はただ生きることに集約されている……そう言った純粋さが、ひたむきに生に向き合うそのさまが、人にはとても尊く映るのだろうと思う。

「ここにいると、時々つらくなってしまってね……。誰だって我が身や我が子が可愛くて、それゆえに……他の誰かなど、どうでもよくなってしまうことがあるから」
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