助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「あなたが、なによりも息子さんを大切に思うように……ラルドリス様を大切に思う人がいるんです! あなたの命だって、決して軽んじられるべきものじゃない! マリアさんがいたら、きっとあなたのことを止めたはずです!」

 メルの深緑の目が、魔術師を見据えた。
 それに反し、魔術師は、口元から血を垂らしながら叫んだ。目も血走り、顔に血管が浮く。
限界を迎えているのは明らかだ。

「人が大きな幸せを掴むためには、なにかしらが犠牲にならなければならないのだ! もっとも大切な者のために他を切り捨てて何が悪い!」
「そうまでしてザハールさんを想うなら……」

 その先をメルは口にすることが出来なかった。
 すべてを失い、地獄の苦しみを背負う覚悟で、たったひとりの望みを叶えたい……。
 それをこうした形でしか実現できなかった彼にしてやれることは、メルの側からはもうないのだ。
 だから、メルにできるのは、同じ覚悟をもって彼に相対することだけだった。

「ならば……私は譲りません! あなたが殺そうとする彼を、全力で守ります!」
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