助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「チューッ」
「あはは、ごめん。そうよね、あなたがいつも私の話を聞いてくれてるものね」
「ちぇ……」

 メルがそうしてチタの柔らかい毛皮を撫でてやる間、ラルドリスは少しだけ悔しそうな顔をし、そこでシーベルが如才なく話をまとめにかかった。

「はっはっは、チタ君とメル殿の仲の良さを見せつけられてしまいましたな。さあ、冷めてしまっては元も子もない。そろそろ食事をいただきましょう」
「そうだそうだ。なんのために寒いのを我慢したと思っている。食おう食おう」

 ラルドリスはさっさと切り替えると、丁度よい温かさになったスープを改めて掬い、口に含んだ。王族らしく優雅な仕草だ。だが匙を操る速度は次第に速くなり、瞬く間にスープの嵩が減ってゆく。

「……どうですか? 初めてのお料理のお味は」

 そのまま脇目も振らず食事を進める彼にあえてメルが尋ねると……。
 彼からは不満気な表情とは裏腹、わざとらしい咳払いの後にこんな一言が返ってきた。

「――悪くない」
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