助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね

王国兵の追跡①

(なんだろう、あったかい……。それに……いい、香り――)

 食事の後、明け方から動いていたため、一行は馬車内で少し仮眠を取っていた。
 太陽が真上を行き過ぎた頃、毛布にくるまり穏やかな寝息を立てていたメルの意識が、次第にぼんやりと覚醒してくる。
 遠くで馬の嘶きが聞こえ、誰かが扉を開けていく音がした。おそらく、異常に気付いたシーベルが外に様子でも見に行ったのだろう。

(これ……なんだっけ)

 それにしても心地よい。身体は柔らかいなにかに包まれ、指先が、温かくもしっとりしたものに触れている。ゆっくりと上にずらしてゆくと、それは少しでこぼことした部分に突き当たり、細い糸のようなものが指に絡んだ。
 とても安らいだ気分のまま、メルはその正体を確かめようと目をうっすら開き……。
 目に入ってくるのは美しい金の髪と乳白色の人肌、長い睫毛。と、そこで――。

「……っきゃあああああああぁ~っ!」

 メルはただただ肺の中の空気を全力で解き放った。
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