復讐は恋を妨げる
第五話 キスも利用する

〇結奈の働くオフィス・誰もいない会議室
美香に話があると連れられた結奈。
二人きり、冷たい空気が流れる。
 
美香「先輩、退職しなかったんですね」
結奈「退職……しないよ」
美香「先輩は、上条さんと婚約しながらも、他の男と浮気していた、最低女ってことになってますよ」
結奈「何それ。そんなのデマカセだよ」
美香「知ってます♡ だって、その噂流したの私なんで♡」
したり顔の美香の顔アップ絵。驚いて固まる結奈。

美香「だって、誰かが悪者にならなきゃ、交通事故で意識不明の婚約者から乗り換えた最低男になっちゃうし、私も略奪女になっちゃうじゃないですかー」
結奈「そんなの、事実じゃん」
美香「事実でも、嘘で塗り替えちゃえばいいんですよ?」
妖美に微笑む美香。
結奈(そんなこと……)

結奈「仕事の出来るみんなの人気者の副社長。けなげに仕事に励む可愛げのあるわたし。お似合いだと思いませんか?」
美香「自分が何をしたかわかってるの?」
結奈「わかってますよー。でも重要なのは、その過程より、結果じゃないですか? つーくんの妻はわたしなので♡ 結果がすべてって教えてくれたのは先輩ですよ?」

美香のセリフを思い出す結奈。
  
〇回想シーン・半年以上前・オフィス
他の同僚に悪口を言われ、落ち込む美香。
話を聞いて落ち込む美香を励ます結奈。
結奈「他の社員に何言われたって気にしなければいいよ! 現に美香ちゃんは結果を残してるじゃない。結果がすべてよ(・・・・・・・)!」

(回想シーン終了)

結奈「言ったけど……あれは仕事に対して、落ち込むあなたを励ますために」
美香「いい後輩を持ちましたね? 先輩の教え通りにしただけですよ♡」
妖美に微笑む美香。
美香「知ってました? 上条社長ってなにより世間体を気にする人なんですよ。息子の結婚式を中止にするなんて、激怒してたらしいですよ? だから感謝されましたよ。『結婚式直前で事故なんかに遭う女を嫁に向かえなくてよかった』って♡」

不敵な笑みと共に言い残して去っていく美香。
美香を引き留める結奈。

結奈「待って!私、なにかした?」
結奈(しっかり面倒見ていたつもりだったのに……こんな仕打ちをされるなんて)

美香「別に? 何もしてませんよ?ただ、副社長の妻というポジションが欲しかっただけです」
嫌見たらしく笑う美香。

 
〇結奈が働くオフィス・部署
会議室から戻る結奈。
美香の攻撃に落ちむ。
小林(女性社員)「上条さーん!」
女性社員の「上条」という呼びかけに思わず反応して振り向く結奈。
そんな結奈の後ろから声を上げる美香。

美香「はーい。なんか上条って慣れないなあー。すぐに反応できなくてすみません。あれ?上条じゃないのに、反応しちゃいました?」
反応した結奈を見下ろして、鼻で笑う美香。
つられてくすくすと笑う数名の女性社員。
 
小林「新婚生活はどうなの?」
美香「幸せだよー。つーくんってね、凄く優しくて。あ、司って言っちゃった。会社では副社長だね」

結奈(『つーくん!?』)

美香「待って。結奈さんの前で、つーくんの話するのはやめよう? 逆恨みされちゃう……」
怯えたような顔つき(もちろん演技)
小林「もう、美香ちゃんは優しすぎ! だって、事故に遭う前に他の男と密会してたんでしょ? そんなの婚約破棄されて当然だよ」
演技をする美香を大げさに心配する女性社員。

結奈(もう……みじめすぎて無理かも)
涙目になる結奈。

いたたまれない結奈の前に岬が現れる。

岬「わっ。女子って陰険ですねー。直接言わずに攻撃っすか?」
岬のことを知らない同僚は、ざわつく。
小林「きみ、誰……?」
岬「上条岬です。今日からこちらでお世話になります」

※結奈も知らされていないが、岬は結奈の部署で働くことに決まっていた。

小林「上条……もしかして上条副社長の弟さん?」
岬「そうです。もしかしたら、社長の座は俺がなるかもしれないっす。よろしくお願いします」
顔色を変え、湧きたつ女子社員。
女性社員が目の色を変えて、岬に近づく。

岬「ちなみに、結奈さんが交通事故前に一緒にいた男は俺っす。兄貴が忙しかったんで、親族代表として結婚式での打ち合わせをしてました」
岬、結奈をかばうために嘘をつく。
岬の話を聞いて、不信感をあらわにする女性社員。
女性社員「え、なんか話違くない?」
女性社員「美香ちゃんの言ってることと違うね?」

周りが疑い始めた様子を察した美香、かあーっと顔を赤くして慌てる。
同僚の視線に耐え切れなくなり、その場から逃げ去る美香。

岬「あー。都合悪くなると逃げるタイプか。今のでどちらが嘘をついてるかわかりましたね?」
岬の言葉にざわつく同僚たち。

結奈、岬の腕を引っ張り、廊下に連れ出す岬。

結奈「ちょっと……あの日、会ってたなんて嘘じゃん。それに、あの日は一人で打ち合わせして、誰とも会ってないよ」
岬「知ってるよ。嘘で塗り固められたってことを。だから、さらに嘘で塗り固めてやっただけ。『男となんて会ってません』って否定するより、こっちの方が信じてもらえるでしょ?」
結奈「……」

どんっ、急に壁ドンされる結奈。
さらに顔を近づける岬。キスされそうな体制。

結奈「……ちょ、なにしてんの!?」
岬「しっ、暴れんな。あいつがくるから」
抵抗する結奈、岬の言葉に止まる。
結奈「あいつって?」
状況が分からない結奈。
少し遠くの方から司が歩いてくる。
歩く司の引きの絵。
岬「……どうせなら、キスくらいしとく?」
急に唇をふさがれる結奈、深いキスをする結奈と岬。
結奈(……!?)

キスをする結奈、司の絵。
頭を掴まれ、唇を離せない結奈。
ぐいっと、岬が引き離される。
 
司「なんでここにいるんだよ……岬!」

岬、後ろに引っ張られる。
怒ったような血相の司。

岬「なに? キスしてただけだけど?」
司「お前……」

久しぶりに顔を合わせた結奈と司。
司の顔を見て、切なそうな結奈。

結奈「……司、あの……」
司「やっぱり、結奈は上条家の男なら誰でもいいんだ?」

鼻で笑う司。

結奈「ちがっ、」
司「よかった。金目当ての女と結婚しなくて」
哀しくて言い返せない結奈。

岬「ははっ、見る目がなくてよかったー」
司「は?」
岬「やっぱり兄貴は見る目ないわ」

ぎゅっと結奈の肩を抱き寄せる岬。

岬「結奈を捨ててくれてありがとな」
驚きと嫌悪感を感じる表情の司。
岬、妖美に微笑む。


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