めぐるの耽溺日誌

え?今、彼はなんて言ったのだろう。


今の私は、地上に上げられた魚と同じような状況かもしれない。

だって、口をパクパクとさせて、まともに息が出来てないから。




「……、え、?」


「中身が開いてたから見ちゃった。雪平さんってこんな人だったんだねぇ、俺以外にも色んな人の情報がびっしり書いてる」



ノートをヒラヒラと揺らしながら美しく笑う彼は今は悪魔のように見えた。


今……私が考えてる事は、なんでちゃんとノートを持ってるか確認しなかったのか。


どうやったら、彼が私のことを気持ち悪いと思わないか。


その二つで頭がいっぱいいっぱいになっていた。




「さ……さき、さかくん……、」


「ん?」


「き、嫌いにならないで……、」




気持ち悪いと思われたくない。


私のことを、嫌いにならないで。


私の脳内をぐるぐると回っていた言葉は、ポロリと自然に出ていた。




「嫌いに?なんで俺が嫌いになるの?」


「だって……気持ち悪いでしょ……?」


「確かに。こんなに俺のこと見てたのは、ちょっと気持ち悪いかもね」




あぁ、死にたくなるってこういうことを言うんだ。


今ここに拳銃があったら、私は迷わず自分のこめかみに銃弾を撃ち込むかもしれない。


そんな私とは対照的に、向坂君はずっと楽しそうに笑っていた。




「雪平さん、俺のこと好きなんでしょ?」


「……は、はい……」


「俺のためなら、なんでも出来るよね」


「……うん…」


「俺の言うことちゃんと聞けるなら、付き合ってもいいよ」




「……え?」






「生徒会副会長の立花 京治《たちばな きょうじ》を一緒に地獄に落として欲しいんだ」




そう言った彼の顔は、相変わらず作り物のように美しかった。


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