Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
「あっ、そうだ! あの栗農園の佐久間さん、もし了承されたらどうしますか?」
「あぁ、気にしないで大丈夫だよ。たぶん会ってもお互い『久しぶり』くらいの感じだと思うし」

 杏奈は軽く言ったが、鈴香は真剣な表情で拳をギュッと握りしめる。

「……私は一発殴ってやりたいくらいですけどね」
「うふふ。気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう」

 その時スマホにメッセージが届いた音がして、杏奈は画面を覗き込む。するとそこには高臣の名前が表示されていた。

「うわっ、もしかして彼氏さんですか〜?」

 鈴香がニヤニヤしながら杏奈を見る。

 今までは高臣のことを秘密にしてきたから、誰も杏奈のスマホに興味など示さなかった。しかし興味津々の鈴香に知られてしまったのだから、これからは注意が必要になる。

 とりあえず誰に見られても大丈夫なように、登録してある名前だけは変えておこう。でないと、何かあった時に彼に迷惑をかけてしまう可能性だってある。

 杏奈が苦笑いをしながら画面をスクロールさせると、『今日は早く帰れそうだから、良かったら一緒に食事でもどうかな?』とメッセージが届いていた。

 鈴香も合コンのために早く帰りたそうだし、それなら--『私も早く終わりそうだから大丈夫』と返事を打ってすぐに、『迎えに行くから待ってて』と返事が来た。

 よく考えてみれば、いつも返信が早くてマメな人だというのが伝わってくる。いろいろな一面を知るたびに、彼が可愛いと思えてしまう。

 『待ってます』と送ると、了解の絵文字が届いたので、思わずクスッと笑いが溢れた。

 私、ちゃんと恋愛してるみたい。"好き"だとは思っていたけど、少しずつ"愛してる"に近づいているのかもしれない。

 杏奈から幸せオーラが出ていたのか、鈴香は唇を尖らせ、鼻息を荒くしながら頬杖をついた。

「あーあ、私も彼氏が欲しいよ〜!」

 半個室であっても防音しきれなかった声に、店にいた人たちの声が一瞬静かになり、杏奈と鈴香は顔を見合わせて笑うしかなかった。
< 70 / 88 >

この作品をシェア

pagetop