Ring a bell〜冷然専務の裏の顔は独占欲強めな極甘系〜
* * * *

 二人がランチから戻ると、課長が笑顔を浮かべて近寄って来たので、きっといい知らせがあるのだろうと苦笑する。

「佐久間農園さんから連絡があって、引き受けてくださるそうだ」
「そうですか……ありがとうございます」
「いいんだよ。ニ日後にこちらに来る用事があるから、その時に栗を持って来てくれると言っているんだけど、それで間に合うかい?」

 杏奈と鈴香は顔を見合わせて黙り込んだ。もし本当に佐久間農園さんに栗を提供していただくのならば、きちんと挨拶をして、今後の流れや契約について話し合う場を設けなければならない。

 それは確かに気まずいかも--しかし課長からの提案でもあるし、こちらから断るわけにはいかない。

 すると鈴香が杏奈に向かって、まるで『任せてください!』とでも言うかのように胸を叩いた。

「課長、今回のこの企画、私にリーダーをやらせていただけないでしょうか⁈」
「えぇっ! 岸辺くんがリーダー? 大丈夫なのかい?」
「先輩がサポートしてくれれば大丈夫です! それとも課長、やる気のある部下の成長を止めるおつもりですか⁈」
「いや、そんなつもりはないけど……」

 課長は困惑したように杏奈の方に向き直る。

「碓氷さん、彼女で大丈夫かい?」

 杏奈としては中心になって話を進めてくれるのが鈴香であれば、こんなにありがたいことはなかった。

 気にしていないと言えば嘘になる。向こうが気にしている可能性だってある。鈴香というワンクッションがあった方が、お互いのためになる気がした。

「えぇ、もちろん大丈夫です。私もサポートに付きますし、岸辺さんのやる気を尊重してみてはいかがでしょう?」
「うーん、まぁ碓氷さんがそう言うのなら、今回は岸辺さんに任せてみようかな」
「ありがとうございます! 誠心誠意頑張らせていただきます!」
「じゃあまずは二日後に打ち合わせを入れておいてね」
「わかりました!」

 それから課長がいなくなるのを待って、二人はパチンと互いの手を合わせる。

「鈴香ちゃん、助かったよー。ありがとう」
「いえいえ。私が先輩を守りますから! でもリーダーなんかやったことないので、本当にサポートお願いしますよ!」
「うんうん、任せて!」

 一抹の不安は残るものの、佐久間と二人きりになることは避けられそうで、ホッと胸を撫で下ろした。
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