ただの道具屋の娘ですが、世界を救った勇者様と同居生活を始めます。~予知夢のお告げにより、勇者様から溺愛されています~
「……じゃあ、俺はビオレッタさんが休む日に休みます! そう決めました」
「ええ!?」

(そんな!)

 それではラウレルが休むためにはビオレッタが休みをとるしかないじゃないか。

「私のことはお気になさらず、ラウレル様の休みたい日に休んで頂いて構わないのですが」
「俺はビオレッタさんと休日を過ごしたいです。そしたら一緒にどこへでも行けますよね」
「一体どこへ行こうと……」

 毎日道具屋のカウンターに立っていたビオレッタは、村の外を知らなかった。
 村から出ることがあったとしても、薬草の採取に森へ行ったり、せいぜい傍の海岸くらい。海岸も、特産品『リヴェーラの石』を拾いに行くという目的があってのこと。石は拾ったあと軽く磨いて、道具屋で売っていた。

「ビオレッタさん。グリシナ村の『リヴェーラの石』みたいに、世界にはたくさんの特産品が存在します。見てみたくないですか?」

 それは……道具屋として心が疼く。

「他の街の道具屋がどのようなものを売っているのか、知りたくないですか?」

 ラウレルはなんて魅力的な誘い文句を……

「俺と一緒ならどこへでも行けますよ。行ってみませんか?」



「い、行ってみたいです」

 またもやラウレルに流されている自分が情けない……
 ラウレルはというと、さっそく地図を広げて「どこへ行きましょうか」なんてプランを立てている。

 今を楽しむ彼を見ていると、ビオレッタの先行きの見えない不安など自然と軽くなっていく気がした。
 不思議な人だ。人を巻き込むのが上手い人。そんな彼に救われる。
 ビオレッタは情けない自分を受け入れて、ラウレルと一緒に地図を覗き込んだのだった。



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