お嬢様は今日も美しい

「それはそうだが、しかし……」

「ベルさま、大丈夫です。わたし、頑張ります」

 胸の前で両手で握りこぶしを作る男爵令嬢を愛おし気に見つめる王太子。
 何を見せられているんですかね。あなたたち婚約者同士でも恋人同士でもありませんけど。周りの空気がひんやりとしてきたのは気のせいではないはず。

 お嬢様は無表情で二人を見ています。なんの感情も読み取れません。もともと、表情変化に乏しいお嬢様でもありますが、はなから興味対象外なので感情も揺れ動かないのでしょうね。

「えっ……と。始めは……教科書が、無くなっていて。忘れ物をしたのかなって思っていて、でも家を探してもなくて、あれって、思っていたら教室のごみ箱に捨てられていて……」

 つっかえつっかえ、時にはぐすっと涙ぐみつつ、おずおずといった体で話し出す男爵令嬢。

 これが演技なら……演技でしょうけれど。人気女優になれるのではないかしらね。
 卒業後は女優を目指すことをお勧めするわ。

 それにしてもせっかくのダンスパーティーが台無し。
 生徒会長の権限でこの茶番劇をさっさと終わらせてくれないかしら。




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