恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

Spot13 さくらベーカリー

***

「やっと本当に婚約したのね。見てる方はとってもじれったかったのよ」
「え?」

翌週、お茶の時間に胡桃の指輪を見た十玖子にしみじみと言われる。

「まだ胡桃のご両親にも俺の親にも会ってないから全然正式じゃないけどな」
胡桃の隣の壱世は平然としていて、胡桃だけが状況を飲み込めずに二人の顔を交互に見た。

「とっくにバレてたんだよ。偽物だって」
「え!? いつ? どうして?」

「いつって……最初からかしらねぇ」
十玖子は頬に手のひらを当てて思い出すように言う。

「最初って、あのパーティーってことですか?」
十玖子はニコッと笑う。

「だって、壱世が選ぶ相手にしては隙だらけなんですもの」
「隙だらけって」
胡桃の眉間に困ったような縦線が入る。

「壱世にそっくりな完璧で可愛げのない相手を連れてくるだろうと思っていたから、真逆の胡桃さんが現れて驚いたのよ。とってもかわいらしくて楽しくて」

「褒められてる気がしないんですけど……」
胡桃は口を尖らせてほうじ茶をすすった。

「俺に対する嫌味だよな」
元々の自分の思惑を見透かされていた壱世も不満そうに眉をひそめる。

「いくら日が浅くたって、両親が外国にいることも、おじいさまが市長だったことも、相手が料理ができることも知らない婚約者だなんて、嘘が下手にもほどがあるわよ」
十玖子はどこか満足げにお茶をすする。

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