恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
「それでは、ここで市長に今回の絵画コンクールの総評をお願いしたいと思います」
表彰式の進行役がマイクを壱世に渡す。

「ベリが丘市長の栗須です。『ベリが丘SDGs絵画コンクール』受賞者の皆さま、誠におめでとうございます」
壱世はキリッとした市長らしい風格のある表情で話し始めた。

(こういうときも堂々としててすごいなぁ。原稿なんて全然読まない)

「——SDGsをエコ運動だと勘違いされている方もいるようですが、本来は資源を大切にする以外にも、子どもや女性など、さまざまな立場や視点から社会が良くなる仕組みを作ろうという行動目標です」

(だけど本当は結構イタズラっぽいところがあって、よく笑うんだよね)
胡桃はプライベートの壱世を思い出してクスッと笑った。

壱世はスピーチを続ける。

「みなさんの作品からはそれがよく伝わってきました。SDGsという言葉にとらわれず、ベリが丘をみなさんのような未来ある若者が活躍できる街にしていきたいと思っています。みなさんの豊かな想像力で、私と一緒に街を変えていきましょう」

壱世のスピーチに拍手が起こる。
胡桃もカメラを下げて、ステージの近くからパチパチとひと際大きな拍手をした。

「なにが若者が活躍できる街、だ」

胡桃の耳に、そんなつぶやきと「チッ」という舌打ちが聞こえた。

声の方向を見ると、笑顔で拍手をする鹿ノ川が立っている。

『副市長なんかもそっちの考えのはずだ』
梅島編集長の言葉を思い出す。
鹿ノ川は壱世の改革に反対しているらしい、という話だ。

壱世と同じ若い世代の胡桃には、笑顔の副市長がとても陰湿で怖い存在のように感じられた。

< 51 / 173 >

この作品をシェア

pagetop