恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
イベントが終わり、展示ブースやステージ、表彰式会場に並べられていた椅子の片付けが始まった。
胡桃も片付けのための頭数として借り出されていた。

「この椅子ってどこから持ってきたんですか?」
胡桃が折り畳みのパイプ椅子を片付けようと、近くにいた人に声をかけた時だった。

「市長はゆっくりしていてください」

市の職員らしき男性の慌てる声が聞こえ、胡桃はそちらに視線を送る。
見ると、壱世も胡桃と同じように椅子を運ぼうとしていた。
すぐそばには同じように片付けを手伝おうとする高梨も見える。

「このくらいの片付けならみんなでやればすぐに終わりますよ。さっさと終わらせてしまった方がいいでしょう。ちょうど私の時間にも余裕がありますし」
「しかし……」

困惑したような表情の職員が壁の方に目をやると、鹿ノ川と彼の秘書は片付けの様子には目もくれずにスポンサー企業の人間と大声で談笑している。
壱世は呆れたようにため息をついた。

「鹿ノ川さんも、お手伝いいただけますか?」

壱世が丁寧な口調で鹿ノ川に声をかけると、鹿ノ川が一瞬眉をひそめて不満をあらわにしたのが胡桃にもわかった。
それでも鹿ノ川と彼の取り巻きもしぶしぶ片付けに参加した。

「椅子はどこに——」
「こっちの倉庫室だそうです」
今度は椅子を持った胡桃が壱世に声をかけた。

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