恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
壱世が胡桃の足に乗っていた椅子をどかして起こそうとする。

「……」
胡桃は座り込んだまま、無言で足を確かめるように手を当てた。

「大丈夫ですか?」
騒ぎに気づいた高梨が駆け寄ってきた。
「あ、大丈夫です! お騒がせしてすみません」
胡桃は「えへへ」と笑う。

「高梨、二階のドラッグストアで湿布を買ってきてくれ」

「え? 私は大丈夫で——」

言いかけた胡桃の体がフワッと浮く。
(え!?)
「控え室にしている部屋があるから、そこで休むといい」

気づくと壱世に抱き上げられていた。
周囲の人たち、とくに女性が騒ついているのがわかる。

「あの……」
彼の顔をチラッと見上げる。

「ん?」
「い、いえ」

(これっていわゆるお姫様抱っこなんですけど……)

ただ自分を心配してくれただけの冷静な壱世に、ドキドキしてしまうのが少し恥ずかしい。
それでも軽々と自分を抱き上げた壱世に、少しもときめかないというのは無理がある……と胡桃は思った。

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