恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
「休みの日まで大変ねー」
胡桃は苦笑いでごまかした。

「くーちゃんこの間、駅前のカフェをジーっと覗きこんでたでしょ」
「おばちゃん見てたんだ……」
「車で通ったのよ。怪しい人がいるって思ったらくーちゃんだったから」
「だって新しいお店が気になったんだもん」

「だからってね〜」
おばちゃんは同意を求めるように壱世の方を見た。

「もー! チャーハンと麻婆豆腐定食!」
胡桃が強制的に話を終わらせると、おばちゃんは厨房に向かった。

「何笑ってるんですか……」
口を尖らせる胡桃の目の前では、壱世が笑いを堪えていた。

「いや、悪い。はは」
堪えきれずにおかしそうに笑う。

「君に変装が必要な理由がわかった。いろんな所で目撃されてるんだな。俺よりよっぽど有名人だな」
「そうなんです。大抵〝あれ食べてた〟〝あそこで変なことしてた〟ってやつなんです……取材で関わった人が増えるたびにこういうのも増えてて」
胡桃はメニューで半分顔を隠して恥ずかしそうに言った。

「でもおかしいなぁ、カフェのときはメガネかけてたはずなんだけど」
「そんな怪しい行動がメガネだけで隠せるわけがないだろ? 行動の方を改めろよ。十玖子さんが聞いたら卒倒するんじゃないか?」

彼はまたおかしそうに笑っている。
壱世が楽しそうに笑っているのを見ると、胡桃の胸はいつもキュンと音を鳴らす。

「お味はいかがですか?」
麻婆豆腐を食べる壱世にたずねる。

「うん、うまい」
「ですよね。『ベリが丘がおいしいものだらけ』って大袈裟じゃないですから」

胡桃はチャーハンを食べながら、満面の笑みを浮かべた。
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