恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜

Spot10 ベリが丘駅前

「市営の無料バスには乗ったことありますか?」
ふたばを出たところで、胡桃が聞いた。

「PRイベントで一度乗った」
「一回じゃ全然わからないですよね。きっと短い区間だったと思いますし」

バス停で待っていると、小型でレトロな深いグリーンのバスがやって来た。

「このバスは無料なのが最大の魅力で低床で機能性もきちんとしてるんですけど、それだけじゃなくて車体がおしゃれで窓が大きくて景色が良いから乗りたくなるんです。そういうところにこだわるのがベリが丘らしくて好きです」
二人で一番後ろの座席に座ると、窓側の胡桃は外を見ながら言った。

「バス会社の回し者みたいだな。市民の評判が良いと高梨から聞いた」
「そういえば高梨さんとはお付き合いが長いんですか?」
「前職でも俺の秘書だったから、そのまま今も付き合ってもらってる」
「怖い方かと思ったけど、冗談も通じる楽しい方ですね」

〝前職〟と聞いて、また本物の婚約者のことがチラつく。

「えっと、このバスはときどき子どもの絵画コンクールなんかもやってるから、ほら今も車内に展示されてます……って、さすがに知ってますよね」
余計なことを考えたせいで、少しだけテンションが下がってしまった。

「あ、もうすぐです」
「え?」

「窓の外、見ててください」

二人を乗せたバスが並木路に差しかかる。

< 92 / 173 >

この作品をシェア

pagetop