恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
「ここだけなんです、このバスから海が見えるのは」
並木路を横切る瞬間に、通りの先、サウスパークの木が途切れた向こうに海が見えた。

「海の近くの路線でずっと海を見るのもいいですけど、この路線のこの場所の海は街路樹がフレームみたいで特別感があって好きなんです。高校生の頃は自転車でこの道を通って通学してて——」

そう言って胡桃が振り向くと、隣で前の座席の背もたれにもたれかかってメガネ越しに優しく微笑む壱世と目が合った。
胡桃の心臓がトクンと跳ねる。

「君は高校生の頃からあまり変わらなそうだな」
「……正解です」
壱世が高校生の自分を想像してくれるのが気恥ずかしい。

「うちの市長ってマジでイケメンだよね〜」

バスに乗っていた女子高生らしき二人が話しているのが聞こえて、胡桃は思わず壱世の顔を見た。

「うちのママもファンだって」
「この前、(もも)ちゃんが市のイベントのボランティアに参加したら、市長も片付けの手伝いしてくれたんだって。他のおじさんは見てるだけだったのに」
「性格もイケメンじゃん」
「あたしのお父さんは〝顔だけだ〟って言ってるけどね」
「嫉妬じゃん。イケメンは大変ですなー」
「ですなー」

まさか本人が聞いているなどとは思っていない彼女たちのゆるい会話に、胡桃は笑いを堪える。

「あたしは若い市長でうれしいけどね。気持ちわかってくれそうで」
もう一人も同意するように頷いた。

「ですって。若くてイケメンなのも悪いことばかりじゃないですよ」
胡桃がヒソヒソ声で言った。

「どういう励まし方だ、それは」

顔をしかめる彼に、胡桃はクスクスと笑う。


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