恋愛日和 〜市長と恋するベリが丘〜
『次は〜ベリが丘駅前〜』
アナウンスを聞いて胡桃は降車ボタンを押した。

「この辺りは詳しいですか?」

ベリが丘駅はベリが丘の三つのエリアの境目にある。
駅前から北へのびる並木道は途中から桜並木の櫻坂になり、その終点がいつも胡桃たちが通っているノースエリアのあの門だ。

「サウスエリアよりは馴染みがあるが、詳しいというほどではないな」
「ここは全てのエリアの人が毎日使うから、一番ベリが丘がよく表れてる場所だと思ってます」
駅前の雑踏を眺めながら言う。

「最近は少し、冷たいかな」
胡桃はポツリとつぶやいた。

「君がこの街にネガティブなことを言うのはめずらしいな」
「うーん、ネガティブ……たしかにそうですよね」
壱世の言葉に眉を寄せる。

「変わらずに大好きな街なんですけど、最近はエリアの境がはっきりしているというか……昔からいる人、新しく来た人、仕事で来てる人の交流の場が減ってしまったかな、って。櫻坂のフリーマーケットも随分前に無くなっちゃいましたしね」

彼は黙って聞いている。
「こうして見てるとみんな駅から目的地に一直線て感じですよね。かっこいいオフィスビルも増えて商業施設もできて、どんどんオシャレな街になってるけど、街の温度っていうのかな……他の街と変わらなくなってしまいそうで少し寂しいです」
少しだけしょんぼりして肩を落とす。

「いろんな思いがあるんだな」
彼の言葉にコクッと頷く。

「街が変わるのは仕方ないっていうか、悪いことじゃないってわかっているんですけど、冷たい街にはなって欲しくないです」

そう言うと胡桃はまた歩き出し、駅前の店や施設の特長や自分の好きなポイントを壱世に教えてまわった。

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