時は全てを奪うけれど
姉妹の絆
 ある晩、自宅の風呂場で、樹里は絵里の髪を洗い、念入りにトリートメントもしていた。
 絵里は一人で風呂に入ることも可能ではあるが、いざという時のことや、自分ではうまく長い髪を洗えないので、いつもこうして樹里と一緒に入浴している。
 姉妹の母は、絵里の髪が長いと、樹里が大変だと思い、絵里の髪をベリーショートにしようとしたが、絵里が泣いて嫌がった為、長いままだ。
 友達からは、
「樹里って本当に偉いよね」
 いつもそう言われ、
「それって、ヤングケアラーなんじゃない?大丈夫?」
 そのように心配する相手も居た。
 樹里は、自分のことを偉いだの、ましてやヤングケアラーだと思ったことなど一度もない。
 大切な妹の為に、自分に出来ることをしているだけのことだった。
 風呂から上がると、今度はきちんと絵里の髪をドライヤーで乾かす。
「ねえ、絵里。明日じゃなかった?デート」
「うん!」
「じゃあ、明日はおめかししようね」
「わーい!」
 本音を言えば、樹里だって祐也とデートしたければ、祐也の優しさに甘えて、何かと無理をさせてしまっていることも申し訳なく思っている。
 それでも、今は妹のことを最優先に考えてしまうのであった。

 翌朝、樹里は絵里を起こして身支度をさせると、絵里の長い髪を編み始めた。
「いつもより、少し大人っぽくしてあげるね」
「うん!」
 素直に喜ぶ絵里を見ていると、神様なんて存在しない…つくづくそう思うのであった。
 何故、こんなに純粋な妹の命を、もうじき奪うのか。この娘が何をしたというのか。そんなやるせなさをいつも抱えている。
 
 そして、祐也が迎えに来ると、絵里は大喜びで玄関へと向かう。
「絵里のこと、お願いね」
 切なさを殺しながら樹里が言うと、やはり切なげな眼差しで、
「わかった」
 祐也は答える。

 二人が出掛けたあと、樹里は部屋に籠もり、あることを始めた。
 手先の器用な樹里は、絵里の為に、密かにウエディングドレスを作成していたのだ。
 絵里は、結婚できる年齢まで生きられない…だからこそ、たとえ形だけでもドレスを着せ、両親にも見せてあげたい…それが樹里の精一杯の想いだった。
 パールのような涙が、純白のドレスに染み込んだ。
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