病んだ心をつまびいて





「ひっ……!」





それは、包丁の刃先。
 



脳が認識した瞬間、全身が冷たくなる。




「平石、どこにいくんだ?」


 

ずしりとうしろから乗りかかられた。




背中に密着する体温。

 

私を潰して逃げ場を無くす新山くんの声は至極穏やかだ。

それがむしろ恐怖を誘う。



  
大きな体にすっぽりと覆い尽くされ身動きが封じられる。




一体……どんな表情で凶器を握っているの?



うつぶせだから新山くんの顔は見えない。


けど、うなじをチリチリと刺すような気配に、眼光の冷たさが伝わってくる。




「すこし、ゆっくり話そう。苦しいこといっぱいしてごめんな」




左手首を拘束され、フローリングに縫いつけられた。



右手の真上にはゆらゆらと切っ先が動き、一歩間違えればそのまま突き刺さってしまう。





「ひぅ……はぁっ、はぁ」

「おまえが好きな男は、どの男……?」

「に、やま、く……」

「うそつけ。早瀬の野郎も、動画の旦那様も……アキミチも、みーんなおまえに惚れてるもんな?」

「ち、ちが」

「なにが違うのか、言ってみろよ」





鋭利に尖る刃の反りが、意図的に鼻先ギリギリまで近づけられる。


あまりの恐怖に歯の根が合わない。





「ごめ、なさ」

「謝ってばっかりだな。なんでもかんでも受け入れて、隙だらけで。死ぬ間際にならねぇと自分の魅力を自覚できない罪な女」

「はぁ、はぁっ」

「おまえなんて好きにならなきゃよかったよ。おかげで頭ん中、お前を殺すか他の男全員殺すか、それしか考えられねぇんだもん」





遊ぶように包丁の柄を下に向け、私の首をトントンと叩く。





「なぁ、あの動画は本物か?」

「は、い……ひゅ、っ、ぅ、そう、です……」

「へぇ」





ふたたび前髪に激痛が駆け抜ける。

そのまま力ずくで顔をうしろにねじられ、のけぞった体勢のままくちびるに食いつかれてしまう。




< 307 / 311 >

この作品をシェア

pagetop