病んだ心をつまびいて
「ひっ……!」
それは、包丁の刃先。
脳が認識した瞬間、全身が冷たくなる。
「平石、どこにいくんだ?」
ずしりとうしろから乗りかかられた。
背中に密着する体温。
私を潰して逃げ場を無くす新山くんの声は至極穏やかだ。
それがむしろ恐怖を誘う。
大きな体にすっぽりと覆い尽くされ身動きが封じられる。
一体……どんな表情で凶器を握っているの?
うつぶせだから新山くんの顔は見えない。
けど、うなじをチリチリと刺すような気配に、眼光の冷たさが伝わってくる。
「すこし、ゆっくり話そう。苦しいこといっぱいしてごめんな」
左手首を拘束され、フローリングに縫いつけられた。
右手の真上にはゆらゆらと切っ先が動き、一歩間違えればそのまま突き刺さってしまう。
「ひぅ……はぁっ、はぁ」
「おまえが好きな男は、どの男……?」
「に、やま、く……」
「うそつけ。早瀬の野郎も、動画の旦那様も……アキミチも、みーんなおまえに惚れてるもんな?」
「ち、ちが」
「なにが違うのか、言ってみろよ」
鋭利に尖る刃の反りが、意図的に鼻先ギリギリまで近づけられる。
あまりの恐怖に歯の根が合わない。
「ごめ、なさ」
「謝ってばっかりだな。なんでもかんでも受け入れて、隙だらけで。死ぬ間際にならねぇと自分の魅力を自覚できない罪な女」
「はぁ、はぁっ」
「おまえなんて好きにならなきゃよかったよ。おかげで頭ん中、お前を殺すか他の男全員殺すか、それしか考えられねぇんだもん」
遊ぶように包丁の柄を下に向け、私の首をトントンと叩く。
「なぁ、あの動画は本物か?」
「は、い……ひゅ、っ、ぅ、そう、です……」
「へぇ」
ふたたび前髪に激痛が駆け抜ける。
そのまま力ずくで顔をうしろにねじられ、のけぞった体勢のままくちびるに食いつかれてしまう。