冷たい夜に、愛が降る
プロローグ
「……もう無理、限界!今すぐにでも施設に預けよう?」
今から6年前の小学5年生の頃。
真夜中、トイレに行きたくなって部屋を出た瞬間、リビングからそんな叫ぶような声が聞こえた。
初めて聞く、優子さんの荒げた声に、私の身体は硬直してそこから動けなったのをよく覚えている。
「……頼む、優子、我慢してくれ。あの子を見る代わりに、僕らの借金返済、肩代わりしてくれるっていうんだからさ」
「はぁ?僕ら?あなたが勝手に作った借金でしょ!?」
バンッと強くテーブルを叩く音と、椅子を勢いよく引く音が響いた。
「そうだ、ごめん。僕が勝手に作った借金だ。だから、ごめん、あの子に聞こえるから、少し落ち着いて、優子」
「……落ち着けるわけないでしょ!」
荒々しい足音が、どんどんこちらに近づいてきて。
リビングから出てきた優子さんと、バチッと目が合った。
一瞬、優子さんの目が開かれて、私がそこにいることに驚いた顔をしたけれど、すぐにその目はそらされて。
「……早く、寝なさい」
それだけ言って、優子さんはそのままま私の横を通り過ぎて寝室へと入っていった。
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