冷たい夜に、愛が降る

男性は、私の手を掴んだまま平然と隣の車両へと歩き出す。


な、なぜこんなことに。
まさか、関係ないのに口を出したから、怒られる?


手が掴まれたまま彼が席に座り、隣をぽんぽんと叩く。


隣に座れということか……。


なかなか手は離してもらえず、なぜか私も隣に座る形に。


ゆっくり腰を下ろすと、やっと手が離された。


「あ、あの……」


「ありがとう。注意してくれて」


っ!?


彼が、黒マスクを外しながら、こちらにしか顔が見えないようにしてそう言う。


露わになった、シャープな輪郭。
日本人離れしたような、スーッと通った鼻筋に、切れ長の吸い込まれそうな綺麗なアーモンドアイ。


その美しすぎる顔に、息を呑んだ。


幸いにも、私たちの正面には乗客がいないからいいけど……。


この顔が誰かに見られたら、きっと、大騒ぎだ。


「相手の方、怒らせてしまったんですが……撮られる前で、良かったです」


「向こうが悪いから、気にしないで。ほんと助かった」


こうして、彼と一対一でちゃんと話すのは初めてだ。


御田 菫くん。
私と同じ、通信制の学校に通う同い年。
そう、月に一度合う、クラスメイト。


けど、きっと、御田くんは私がクラスメイトだなんてこと知らないだろう。


なんたって、彼は……。


今、日本で知らない人はいないような人物だから。

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