冷たい夜に、愛が降る
「あ、あのっ」
私は、同じ席に座る彼女たちにゆっくり近寄って、スマホを持つひとりに、小さく声をかけた。
彼女のスマホの中をチラッとみれば、明らかに、その画面はカメラモードになっている。
「……え、なんですか?」
「……えっと、それ、よくないかと」
できるだけ、濁しながらスマホの画面を指して伝える。
「はっ?なに?鏡代わりにしようとしただけだよ?」
女の子はそういうと、カメラをすぐに内カメモードに切り替えた。
……な、なるほど。その手があったか。
会話の内容も聞こえていたし、彼を盗撮しようとしていたのは間違いないのに。
撮られてしまっては遅いと、早まり過ぎたかな……。
「最悪。冤罪すぎでしょ!」
「……あっ、す、すみま──」
ご立腹な彼女に謝ろうと、頭を下げた瞬間。
「あの」
という男性の声がしたので、驚いて顔を上げると。
さっきまで、向かいの席に座っていた全身黒ずくめの彼が、私たちの目の前に立っていた。
「……会話、全部聞こえてるから。どんなに隠してるつもりでも、撮られてる方はわかるし」
「……っ」
男性の言葉で、女の子の顔がなんともいえない表情をしている。
「行こ」
「えっ……ちょっ!」
突然、なぜか男性に右手を掴まれて、立つように促される。
ど、どういう状況!?