繊細な早坂さんは楽しむことを知らない



 奈江はダンボールに梱包したランプを紙袋に入れると、早速、康代の家を出た。

 吉沢らんぷは駅前商店街を西へ一本入った角にある。大野の街に詳しくない奈江だが、らんぷやの場所はよく知っていた。それは、奈江の初恋の人が吉沢らんぷの息子だからだ。

 初恋の彼に出会ったのは、奈江が高校一年生のとき。骨折した康代の代わりにマメの散歩に出かけ、彼……吉沢遥希(はるき)に出会った。

 当時、2歳年上の遥希は高校三年生だった。彼もまた、柴犬を飼っていた。まだ一歳になるかならないかの元気いっぱいな男の子で、名前はシェード。名付けの親は、彼の母親だと言っていた。

 名前の由来を尋ねたら、『ランプの傘』と、彼は苦々しく答えた。彼の実家はビンテージのランプを扱うお店を経営しているから、その名をつけたらしい。彼はその安易さにあきれているようだった。

 しかし、とにもかくにもシェードは愛嬌があってかわいらしく、どちらかというとおとなしいマメを気に入ってか、散歩する姿を見つけるとすぐに駆け寄ってくるのだった。だから自然と、奈江も遥希と仲良くなった。
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