繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「2階は仕事部屋。マンションでもこっちでも仕事ができるようにしてあるんだよ。気になる?」
「あ、ううん。ランプが綺麗だなって」
「ランプか。早坂さんとは趣味が合うね。俺が気に入ってるやつをだいたい見てる」
「猪川さんはセンスがいいから、誰だって気に入ると思います」
「そうでもないよ。さっきの温美なんてさ、全然ランプに興味ないし。デザイン科出てるのにさ」

 楽しそうに彼は語る。温美とは気心の知れた仲なのだろう。

「デザイン科って?」
「高校だよ。温美は高校の後輩でさ」
「そうなんですね」
「それだけ?」
「それだけって?」
「いや。気にならないのかなって思っただけ。あ、コーヒー飲んでよ」

 苦笑する彼にすすめられて、奈江はコーヒーカップを持ち上げる。優しい香りがして、ひと口飲むと、柔らかな味が口の中に広がる。

「こんなにまろやかなコーヒー飲むの、初めてです」
「美味しい?」
「ものすごく」
「よかった。……あのさ、興味ないかもしれないけど、俺が温美に親切にするのは、ちょっとわけがあるからなんだ」

 少しばかり言いにくそうに、秋也は切り出す。

「親切にしてるんですか?」

 コーヒーをわざわざ買ってきてくれたりして、親切にしてるのは、温美の方だと思っていた。

 ますます苦笑する彼に、奈江はハッとする。

「気にしてないですよ。私と出かける予定があるのに、彼女を優先したこと。だいたい、お仕事なんですし」

 修理の依頼と聞けば駆けつけるのは、当然のことだ。

「あっさりしてるね、早坂さんは」
「よく言われます」
「もうちょっと、俺に興味持ってもらえるとうれしいんだけどな」

 口の中でとろける栗きんとんのような甘さで、奈江はうまく振る舞えないが、聞くなら今しかないだろうと思って尋ねる。
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