繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「昔はさ、吉沢店長も俺にらんぷやを継がせようとしてたんだよ」

 心配する奈江を申し訳なく思ったのか、彼は決意したように話し出す。

「遥希がらんぷやに見向きもせずにサラリーマンになって、友梨との結婚を決めたとき、店長は俺に継ぐ気があるか聞いてきたんだ。もちろん、継ぐ気はあったよ。だけど、やるとは即答できなかった。不安だったんだ。遥希が会社を辞めて、らんぷやをやるって言い出したら、店長は遥希を選ぶだろうって思ってたからさ」
「遥希さんは継ぐ気があったんでしょうか?」
「さあ。でも、ランプは好きだったよ」
「それでも、サラリーマンになる道を選んだのは、遥希さんです」

 奈江の言葉にうなずきつつ、秋也は夜空へと目を移す。昔の出来事を思い出しているのだろう。

「あれは、反発だったんだろう。吉沢家はごくごく普通の家だったと思う。多少のいざこざはあっても、それは普通の家ならあたりまえのようにあるものだよな。遥希は母親を嫌っていたけど、それも反抗期によくある言動だと思う」
「嫌ってたんですか?」

 意外だ。高校生の遥希は穏やかすぎるぐらい穏やかで、家族への不満なんて何もないように見えていた。

「いつだったかな。母親が儲からないらんぷやの悪口を言ったって、遥希、怒ってたな。たぶん、それが発端だろう。あのころ、環生くんは学校になじめなくて不登校でさ、母親は環生くんにつきっきり。遥希は反抗期でギスギスしてた。俺にとっては、反抗できる母親がいて羨ましいぐらいにしか思えてなかったけどさ、家庭内は大変だったんだろう」

 秋也は息をつく。
< 131 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop