繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
 秋也が話を切り上げる。親切はうれしいが、素直に甘えることに抵抗があるのかもしれない。それは、秋也を子ども扱いする叔父だからということではなく、彼らの子どもになりきれない彼だから。

 叔父さんたちは名残惜しそうな顔をしていたが、笑顔で別れを告げると境内の奥へ向かう。その先では御神酒の振る舞いがあるのだと、秋也が教えてくれた。

 ふたりの後ろ姿を見届けると、奈江は尋ねる。

「猪川さんはらんぷやを継がないんですか?」
「継いでるよ」

 秋也がふしぎそうに即答する。

「でも、修理だけですよね? 買い付けはやらないんですか?」

 彼はセンスがいいから、こなせるような気がするのだけど。

「買い付けは環生くんがやればいいと思ってる」
「環生さんはランプに全然興味がないみたいでしたけど」

 らんぷやなんて潰せばいいとも言っていたぐらいだ。あまり未練を持たないタイプにも思うし、継ぐ気はないだろう。

「今は興味がないだけかもしれない。環生くんは海外に興味があるだろうし、やる気になったときに店がないと困るだろうから、それまでは俺がなんとかするよ」
「そうなんですか……。猪川さんは本当にランプがお好きだから、なんだかもったいないです」
「俺は今のままでいいんだ」

 秋也は少し遠い目をして、神社に背を向けて歩き出す。帰るのだろうか。背中がさみしそうだ。

「猪川さん、ごめんなさい。私、嫌なこと聞きましたよね?」
「どうして? 全然」

 ふしぎそうに彼は振り返り、首を振る。

「でも……」
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