繊細な早坂さんは楽しむことを知らない
「遥希さんの心変わりを、猪川さんはどう思ってたんでしょうか」
「秋也くんは吉沢のお父さんに恩があるって、いつも一歩引いてたから、遥希のしたいようにしたらいいって言ってた。でも内心は、らんぷやをやりたがってたはず。遥希なんかよりずっと、彼は努力してたから」

 それは、吉沢や遥希が亡くなった今でも変わらないのだ。秋也はずっと遠慮していて、やりたいことをやりたいと言えずに苦しんでいるのだろうか。

「それで、今でも遠慮してるって思うんですね?」
「想像ですけど、修理しかやってないなら、そうじゃないかな。遥希は夢絶たれたのに、自分は夢を叶えたらいけないなんて思ってるのかも。秋也くんならありえない話じゃないかな」
「優しい人ですよね」
「本当に人一倍気をつかうよね、秋也くんって。ご両親がいないから、はやくひとり立ちしたがってたし、周りにわがまま言ったらいけないって、頑張ってるように見えたかな。それなのに、遥希は自分の気持ち優先で、私ね、違和感があったのよ」
「だから、別れる決意を?」

 遠慮がちに尋ねると、友梨はすんなりとうなずく。

「悩んだし、迷ったけど、そうした方がいいと思ったの。でも、遥希はなかなか納得してくれなくて、私ね……嘘ついちゃった」
「どんな……?」

 思わずそう言うと、友梨は奈江へと目を移し、思い切ってというように吐き出す。

「子どもの産めない身体なんだって、嘘ついちゃった。遥希ははやく子どもが欲しいって言ってたから、すぐに別れてくれるって思ってた。でも違った。すごくショック受けてたけど、友梨の死ぬ確率が下がったならそれでいいって言うの。笑っちゃった。最低だよね、私。だから言ったの。真に受けないでよ。好きな人ができたなんて言わせないでって。……最後の最後まで嘘つきだったの、私」
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